メルセデス・ベンツコネクション
世界初、Mercedes-Benzのブランド発信拠点(2/3)

安部基史(本誌編集長)


■2階建て、カフェ・車両展示・レストランで構成

 1階のエントランスを入ると、左が3〜4台の車両展示が可能な「GALLERY」、右がカフェ「DOWNSTAIRS COFFEE」である。
 カフェはラテアート(エスプレッソにスチームして温めたミルクを注ぐ際にハートやリーフといったデザインを描く)が売り物で、カフェラテ1杯380円〜という非六本木価格で、ノートパソコン持参の常連が増えているそうだ。

 「GALLERY」では、単に展示車を見せるだけでなく、周囲を取り囲むように配置された試乗車保管スペースとの壁面をガラスとして視覚的な一体化が図られている。さらに試乗車保管スペースの壁面(エントランスから見て最も遠い位置にある)では、LED照明を使って海中、砂漠、ジャングルなど様々なイメージが投影されている。あたかも海中や大草原を展示車や試乗車が走っているように見せる、中〜遠景で動きを感じさせる演出である。

 「GALLERY」とカフェ「DOWNSTAIRS COFFEE」の間に、上下階を結ぶ階段を設置、さらにここだけで扱うオリジナルグッズを展示販売する「Goodsコーナー」が設けられている。売れ筋はクマのキャラクターで、冬場はパーカーを着せるなど、季節やイベントに応じての限定性を加えるなどの工夫もあって、人気を博している。

 2階はフロア全体を使ったレストラン「UPSTAIRS」で、昼間はビュッフェスタイルのランチやアフタヌーンティー、夜はレストランやバーとして、週末は早朝4:00まで楽しめる。


■18ヶ月の期間限定オープン

 本施設の敷地を含め近隣一帯では、大規模商業施設の建設を予定しており、用地買収などは完了、建築申請の段階にあるという。計画ではかなり環境性能を高めたことから、申請から認可までに数年単位というかなりの時間を要する。その間、開発事業者としては、景観や安全面から、規模の大きな都心用地で空地状態が続くことを避ける必要がある。また、その間に土地の認知度を高めて、商業立地としてのイメージ形成を図りたい。暫定利用の主体として、声をあげたのがメルセデス・ベンツ日本であった。
 同社は設立の1986年以来、ずっと六本木にオフィスを構えており、代表取締役副社長上野金太郎氏は「お膝元の六本木にブランドの発信拠点をつくる」プロジェクトの構想を10年来温めていたという。

 今回、場所とブランドのニーズが偶然にも一致、期間限定でメルセデス・ベンツが土地を貸借、自ら施設を建設することになった。“たまたま土地が借りられたから六本木”ではなく、六本木でなければ実現しなかったプロジェクトというわけである。


世界初、新しい顧客層を取り込むための情報拠点

 実はこうした施設は、ドイツ本国にもなく、世界初の試みである。
 飲食機能は、ドイツ本社の「メルセデス・ギャラリー」に飲食コーナーを設ける等の事例があるものの、空間の主役はクルマにある。一方、「メルセデス・ベンツコネクション」は、クルマを一歩下げて、その分、集客・滞在機能のカフェ(1階)、レストラン(2階)を前面に押し出した。

 「お客様には気軽にカフェに立ち寄っていただき、2階のレストランでランチを取っていただき、何回か来ているうちに、そういえばここにクルマがあるよね、ベンツが運営していたのね。そんなくらいにクルマの位置づけを一歩も二歩も下げて、人が集うコミュニティづくりにこだわりました」(メルセデス・ベンツコネクション ディレクター 中山大輔氏)。例えば、新車発表会はホテルから同所のオープン以来、ここで集約して開催しているが、クルマメーカーだからといってクルマのイベントばかりにならないように注意しているのだという。

 では、なぜそのような場所を作る必要があったのか。
 現在、車種のバリエーションが増える中で、伝統のSLやEクラス、Sクラスを購入するオーナーの嗜好やライフスタイルとは異なる顧客が増えてきている。世代は若く、クルマをブランドや趣味ではなく、道具として捉えている層である。当然、これまでのコンタクトは従来顧客を中心に展開されており、そのままだと現実のニーズやウォンツに対してコミュニケーションが機能不全に陥ってしまう。
 そこで、新しい顧客層や、大都市部の住環境等からクルマ未保有となっている層をメインターゲットとして、クルマの楽しさ、ブランドの意義を伝えるための情報発信拠点、体験拠点を設けたというわけである。


1階の「GALLERY」に並ぶ展示車。






試乗車保管スペースの壁面にはさまざまなイメージが映し出される。螺旋階段を上がるとレストラン「UPSTAIRS」がある。



カフェ「DOWNSTAIRS COFFEE」。手前にメルセデスのオリジナルグッズを展示販売。



お話を伺ったメルセデス・ベンツコネクション ディレクター 中山大輔氏



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