秋田内陸縦貫鉄道 のりものまつり(3/3)
更新日2012年6月1日


○公共交通の命脈握る地域の将来

 少子高齢化・過疎化の問題について、空間通信では「買い物弱者」を切り口として、姉妹サイト「生活・買い物弱者解消のためのコミュニケーションフォーラム」http://space-press.com/index.html)で実態を取り上げている。公共交通への影響については、岩手県盛岡市のIGRいわて銀河鉄道「地域医療ライン」(冬期を中心にマイカーの利用ができない沿線の高齢者に通院の足を提供)、高知県四万十市のオンデマンド交通「中村まちバス」(オンデマンドシステムにより中心市街地の足を確保)等の事例を紹介しているので、ぜひご参照願いたい。買い物の自由の提供は地方にとって福祉問題を超えて、どのようにコミュニティを維持していくのか社会問題化していることがわかるはずだ。

 鉄道趣味や観光だけなら話も尽きない秋田内陸縦貫鉄道だが、上記の事例同様に、沿線地域は社会経済的にたいへん厳しい状況にある。地域と密接に結びついた公共交通として、その将来は予断を許さないのが現実である。



○人口減少と過疎化の続く北秋田地域

 レポートで取り上げた、阿仁鉱山のあった北秋田市(平成17 年に鷹巣町・合川町・森吉町・阿仁町が合併して誕生)は、面積1,152.5平方メートルで、これは秋田県の1割を占める広大な規模である。しかしほとんどが山林で、可住地は同市面積の16%程度の盆地内の平地に限られている。つまり人が住める場所が限られているのである。

 しかも冬季は低温で山間部は積雪量が多く、森吉地域、阿仁地域は特別豪雪地帯、つまり「積雪が特にはなはだしいため、産業の発展が停滞的で、かつ、住民の生活水準の向上が阻害されている地域」に指定されているほどだ。

 高度成長の終焉後、旧阿仁町の基幹産業だった阿仁鉱山が閉山、さらにもうひとつの基幹産業の農林業の低迷に伴う農林業離れ、企業進出の停滞等から若者の人口流出が進行。人口は、昭和35 年から平成17 年の40 年間で66,150 人から40,049 人と6割程度にまで減少、過疎化の進行と人口減少には歯止めがかからず、北秋田市総合計画において掲げている平成22年人口目標を大幅に下回っている状況だという。さらに高齢化も著しく、65 歳以上人口比は平成17 年国勢調査で32.9%、平成47 年には47.2%にまで達すると推計されている(北秋田市策定「北秋田市過疎地域自立促進計画 平成22年度〜平成27年度」)。


○鉄道以外も厳しさ増す公共交通経営

 北秋田市は、秋田内陸縦貫鉄道について、開業以来、地域住民の通勤・通学・通院等の生活の足として重要な役割を果たしていると評価。広大な市域を北端のJR鷹ノ巣駅、南端のJR角館駅で結んでいることから、広域観光の振興にも期待する。しかし、地方鉄道の宿命とも言えるマイカーの普及と沿線人口の減少の落ち込みから、乗車率は年々低下し、不採算額が市財政への大きな負担となっている現実も指摘している。

 鉄道に限らず、バスも同様の状況で、市内の各集落と市中心部とを結ぶ路線バスも赤字運行が続いている。採算がとれない→減便される→利便性が失われる→さらに利用が減少する負のスパイラル脱皮のための、運行形態の見直し等を求めている。

 さらに、大館能代空港は、開港時には東京、大阪、札幌の3 路線が運行され、県外大都市と県北部を結ぶ高速交通体系の要と期待されたが、搭乗率の低下から札幌便に続き大阪便が廃止され、東京便についても低搭乗率が続いているという。


○将来設計が可能な地域と暮らし

 このように、公共の足を整備して、しかも利用補助のような支援に取り組んでも、需要=利用活性が起きにくい(効果が表れない)のは、生活者の利便機能の評価や暮らし方等の違いはもちろんだが、この地域でどのような生き様が可能になるのかという、生存の根源についての分析が問われているのではないだろうか。行政が注力する生活インフラの完全整備が実現しても、当該地で暮らす生活者のビジョンや世代の継続、具体的な家計経済の展望が明確化されなければ、過疎化からの脱却(ある程度の歯止め)は容易ではない。

 これは北秋田地域に限ったことではなく、日本の地方、過疎地域すべての問題なのである。また、買い物弱者対策で明らかになっているのだが、東京都新宿区の戸山団地のように、大都市でもスポット的に孤立や衰退・過疎化、限界集落化が進行するコミュニティが出現しているのだ(http://sankei.jp.msn.com/life/news/120603/trd12060308410002-n1.htm)。

 万事、経済性だけで解決できるわけではない。数字だけで判断する「公」の一方的な切り売り(自由市場原理導入)は避けるべきである。


○新規利用で3千万円の増収を目指す

 秋田内陸縦貫鉄道株式会社は、行政から「秋田内陸線運営費補助事業」として補助金を受けながらも、自ら「平成24年度経営目標達成のために新規乗客による収入増、3千万円を目指す」と発表している。?平成22年度実績から算出すると、毎日707人・年間258千人の乗車で達成できるという。実績は同社のサイトhttp://www.akita-nairiku.com/info/content/index.php?id=26)に公表されている。

 ただし、目標達成が容易ではないことは、ゴールデンウィークの5月の実績を見れば一目瞭然である。行政は、観光利用を含めた利用促進と唱えるが、それがいちばん難しい。オンシーズンの行楽日以外の週末は、「のりものまつり」のようなイベント開催によって、何とかすることができそうだが、イベントには一定のコストがかかるし、人手も必要で、毎週のように開催するわけにはいかないだろう。それでも、平日は現状維持、やはり週末利用促進に賭けるのか?

 鉄道に限らず、集客業種のほとんどは週末と行楽日の売上で平日を賄っているのが実態であろう。大都市では平日に休日の就労者に対して誘導することも考えられるが、地方では可能なのだろうか。

 流通小売業出身の酒井一郎社長は、集客と販売のベテランであり、プロフェッショナルである。その豊富な経験と見識から、また同社同沿線の新たなリソース分析から、利用活性化策について、思い切った判断を示されるかもしれない。“次の一手”に注目していきたいと思う。

 なお、トップマネジメントだけで経営戦略は機能しない。全体最適が必要になる。その点、「のりものまつり」の雰囲気や、そこで出会った同社のみなさん、観光協会のような関係者のみなさんのお話やご様子、さらにはWebサイトでのコミュニケーションを見る限り、主体者全員が同じ方向へ向けて、認識を統一・共有できる基盤があると思う。実現に期待したい。(了)

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