マインランド 尾去沢(4)

4.訪問してのインプレッション

(2)施設のインプレッション
冬期は休業多く坑道のみ

 それでは各設備、アトラクションについての印象をまとめておこう。なお、取材日はオフシーズンの平日ということで、アトラクション系設備は運休中であった。施設全体は年中無休であるが、冬期は、土・日・祝日のみ営業で、以降積雪に備えて、機械の整備・調整を済ませてから“冬ごもり”させるのだという。

1)飲食店

 これもオフピークということで、営業していたのは「ラーメン専門店」のみであった(レストハウスは定休日)。“比内地鶏スープ”と一応特徴を出しているので、「辛口ラーメン700円」を食べたが、単なる“からしみそラーメン”で、量も味も普通。他のメニューを見ても普通の「しょうゆラーメン」でも600円と価格設定が高め。
 ここに限らず、どうして観光地等の食事は、何の特徴もない普通のメニューでも価格が高めなのか。食でも集客を狙うのであれば、その土地の名産、地物素材を使って特徴を出し、価格は物流費が低く、生産地直接買い付け等の努力で安くするべきではないだろうか。
 さらに、ほとんど来客が期待できないから、という気持ちはわかるが、もう少しメニューの選択肢があってもいいのではないか。もちろんここは、JR鹿角花輪駅までクルマで約10分なので、食事は駅前商店街へ・・・という考えもあるが、わざわざ遠くから来た観光客にも配慮すべきである。

2)観光坑道ー1

 前述のようにこの中の造り込みは、その後各地のマインパークづくりの手本ともなった。
 まず、窓口で入場券を購入し、貸し出されるマグシーバーを首からさげ、イヤホンを装着して坑道へ向かう。坑道入口は近代鉱山としての栄華を印象づけるような、立派なレンガ造りのトンネルである。
 早速入坑すると、足下の通路にはトロッコ電車の線路跡が遺されているが、入坑者がつまずかないよう、安全対策のためゲージの高さまでコンクリートで埋められている。これは非常にもったいない。「ここはトロッコ電車で入坑したい!」と特に編集長(鉄道好き)が声を出して残念がっていた。もちろんコストや法規制等があるだろうが、冬期にほぼ休業する各種アトラクションのコストを削ってもやるべきだったのではないかと彼は主張する。


ほとんど店休だったお休み処


「ラーメン専門店」のメニュー


まずマグシーバーを装着


立派な坑道入口。通路にゲージの跡が見える

○30mの断崖等、坑道の跡をそのままに演出

 最初のゾーンは「太古の世界・幻想の道」。「マインキャニオン」と命名したシュリンケージ採掘法によってできた断崖を中心に、坑道の跡をそのまま見せている。パンフレットやホームページでは、“最大の見どころ”と解説している通り、高さ約30mの断崖は赤や緑のライトで演出され、幻想的でもある。通路は谷を渡る橋のように断崖に沿って作られ、上下の断崖がよく見える。

 途中、ライトアップだけのトンネルを抜けると、休憩所を兼ねた神社、古酒の蔵、おみくじ所に到着。休憩所ということから、写真撮影用に掘削機とヘルメットを設置し、自由に装着して撮影が可能。早速ヘルメットをかぶって坑夫を気取ってみた。
 「古酒の蔵」は、日本酒やワインを長期貯蔵し熟成させている場所である。ここでは、持ち込んだ酒を預かり、保管する仕組み(有料)を取っている。また、おみやげ館では、「地底の神秘」として大吟醸酒を販売している。

 おみくじ所は少し趣向を凝らしている。初穂料(100円)を浄財箱へ投入し、箱に入っているおみくじ入りのカプセルを取る。そしておみくじを見終わったら、再びカプセルへ入れて、少し先(約5m)の祈願所の投入口へ入れるというシステム。こういった行動を取ることにより、儀式的な意味合いが加えられ、何か御利益がありそうな感じをうまく突いた仕組みとなっている。
 先へ進み、再びライトアップされたトンネルを抜けると「近代坑道・卯酉ヒ(注1)の道」のゾーンへ。まずは「坑内事務所」と「休憩所」の再現。「休憩所」では約30体のマネキンの坑夫がお茶を飲んだり手弁当を広げたりしてくつろいでいる。しかし、全マネキンがスマートで八頭身の西洋系美男子。オールバックのカツラやメガネ、鉢巻きをつけ、肌の色を浅黒くしているのだが、恐らくデパートで作業服売り場をつくると(こんな売り場はない?)こういう風になりそうだ。これは「坑内事務所」も同じで、全員美男子で全く現実感がない。マネキンの顔さえ見なければ、什器や机上の小物など当時のモノを実際に使ったりして、非常にリアルなのだが・・・。


 そこからさらに進むと、実際に採石を積んだバッテリー電車、トロリー電車の長大編成の実物が展示してあったり、掘削機とマネキンでシュリンケージ採掘の再現があったり、非常に分かりやすく、また初めて見る大型機器に感動すら覚える。
 そしてこのゾーンの最後は、大型機器のメンテナンス状況の再現。ここはセンサーで人が通ると、溶接機器や研磨機が動き出し、マネキンが作業を始める。マネキンの動きは小さいが、実際に研磨や溶接の音、火花も出ているため、臨場感がある。このような再現は過去のマインパークには無い手法であった。
 再び光の演出トンネルを抜けると今度はパネルによる、尾去沢鉱山の歴史や規模、構造、採掘法の解説である。ここに展示してある写真には、当時の坑夫が写っていたが、前に見たマネキンとは似ても似つかない純粋な東洋顔で、体型もがっちりして一見怖そうな男臭い外見であった。
 次のゾーンは「ちょんまげ坑道・慶長の道」。「尾去西道金山奉行」から始まり、金の選別作業、鉱石運搬、たぬき掘り採掘作業、水抜き排水作業等を動くマネキンで再現している。このゾーンのマネキンの顔は東洋系で、着物を着て男性はちょんまげ、女性は日本髪といういでたちで違和感なく見ることができた。
 最後に、実際に“隠れ切支丹(キリシタン)”が刻んだ十字架の跡を展示してあり、こんな東北の山中に様々な人が一攫千金を夢見て(あるいは逃れてきて)作業をしていた史実を改めて実感することができた。
 以上、約45分の坑道ルートは、3ゾーンから構成されている。順番は「太古の世界・幻想の道」、「近代坑道・卯酉ヒの道」、「ちょんまげ坑道・慶長の道」となっている。近代の後に、なぜ江戸時代に戻るのか。これは、オープン当初は「太古の世界・幻想の道」と「ちょんまげ坑道・慶長の道」が先行オープン(現在の早周りコース)して、後からこの「近代坑道・卯酉ヒの道」を整備したからだという。
 簡単にいうと、実際に掘られた坑道の時代を背景として再現して、動線を結ぶと、こうなったということである。しかし、手堀り時代はこんなに苦労したが、近代では採掘法が効率化され、大型機器による量産が可能となったという時の流れは、わからなくなっている。開発時に設定した目標(学ぶ)や理念(ストーリーある展示)からみると、疑問が残る。

※注1:「ヒ」は“金”ヘンに“通”と書く。尾去沢鉱山の鉱脈のうち、採鉱の対象とされた約560条は、24の「ヒ」と呼ばれる鉱脈群に分けられている。それぞれの「ヒ」には固有名詞がつけられており、マインランド尾去沢の観光坑道はこのうちの「卯酉ヒ(東西鉱脈群の意)」に当たっている。


ライトアップで幻想的な「マイキャニオン」


地底貯蔵する「古酒の蔵」


長期貯蔵し熟成を図る「古酒の蔵」


「カプセル」を使って遊び要素を入れたおみくじ



次ページ 4.訪問してのインプレッション(2)