実は、鉄道を取り上げたのは、何とも偶然なのである。帰省本番を迎えた8月の上旬、我々はあるイベントの取材のため、東名高速を西に向かっていた。
 ところが、民族大移動が既に始まっていたのか、名古屋インター付近を先頭とする20km以上の渋滞に遭遇。通過には2時間以上かかるという。そこで、イベントの取材の延期を決意、先方にお詫びの連絡を入れた後、東京へとって帰ることになったのだが、一同「ここまで来て帰るのはもったいない」。結局、鉄道好きな編集長のたっての希望もあって、天竜川の上流に位置する静岡県佐久間町にある鉄道車両展示館・「佐久間レールパーク」を急遽訪ねることになった。
 以下は鉄道車両を見て興奮が治まらない?編集長本人の報告である。


ライン


鉄道のテーマ・パークを訪ねて 
           
「佐久間レールパーク」
             JR飯田線で活躍した往年の名車両を展示公開

佐久間レールパークホームページ=http://www.jrtokai.net/railpark/index.html


1.車両展示が目玉

 鉄道をテーマとする集客施設には、大別すると3つのコンセプトが認められる。1)交通機関としてその発展・役割・機能等を経済学的・社会学的に紹介する、2)地域の発展ともに成長・衰退した鉄道の変遷を歴史的に体系立てる、3)車両や設備等を趣味性で集める等の方法がある。対応する代表例をまとめたのが下表である。

コンセプト 代表例
1)交通機関としてその発展・役割・機能等を経済学的・社会学的に紹介
「交通博物館」(東京都千代田区)

「新津鉄道資料館」(新潟県新津市)

「地下鉄博物館」(東京都江戸川区)

「電車とバスの博物館」(神奈川県川崎市)

2)地域の発展ともに成長・衰退した鉄道の変遷を歴史的に体系立て紹介
「碓氷峠鉄道文化むら」(群馬県碓氷郡松井田町)

「柵原ふれあい鉱山公園」(岡山県片上町)

「加悦谷鉄道SL広場」

3)車両や設備等を趣味性でアピール
「梅小路蒸気機関車館」(京都市)


 1)の「交通博物館」は、鉄道に限らず我が国の交通機関をその仕組みから経済効果そして将来像までフォローしている。また、「新津鉄道資料館」は、鉄道事業と町の関わりをテーマとする。「地下鉄博物館」はまさに地下鉄のテーマパーク、「電車とバスの博物館」では東急電鉄沿線と交通の関わりを訴求する。
 2)は鉄道そのものよりも、地域の文化施設の複合構成であったり、鉄道事業者が廃線後に記念館として開設するケースが多い。ちなみに、ここ数年の「廃線跡探訪」は、廃線跡の発掘を「鉄道考古学」に位置づけ、レトロ・トレンドとも重なって静かなブームを巻き起こしているが、これも記念館建設の追い風になりそうだ。
 3)は鉄道公園や車両保存館等で、施設の規模や保存の方法に差違によって、「梅小路蒸気機関車館」のように観光コース化されているものから、「青梅鉄道公園」  「横浜市電保存館」(「ゆう」さんのサイト、オフィシャルではないが詳細な情報)等のような車両保存館に見られるよう、一般から鉄道ファンまでを意識した専門性の高い施設までが存在している。

 実は、こうした区分は厳格ではない。実際には、施設や展示の規模、立地、事業形態等によって展示方法や機能を複合させたプレゼンテーションを採用している。従って上記3つのコンセプト全てが強弱で出現している。これは、おタッキーなテーマとなりがちな鉄道を博物館事業とするには、一般受けする娯楽性を加味しなければならず、自明の理というわけだ。「佐久間レールパーク」を分析すると、2)を基本としながら、3)をスパイスに効かせた、といったところか。

2.鉄道ファンの取り込みには、事業者の協力が必須

 そうした多様な集客アプローチを確認できる中で、やはり最大の集客ターゲットとは鉄道ファンであろう。熱心なファンの本人はもちろん、その人間関係に来場を期待できる。そこで、コンセプトを鉄道に特化し、趣味性を訴求すると、展示内容の充実(展示車両を増やす、希少価値の高い車両を手配する等)を継続することが、こうしたファン層の期待に応えることになり、ひいては収入を安定的にもたらしてくれる。

 実は、これが最も難しい。そもそも、車両や設備等の展示物で、しかも希少性を継続させるとなると、JRをはじめとする鉄道事業者の積極的な協力がなければ手配はおぼつない。そのため、現存する施設のなかで、このような旬の展示に対応しているのは、JR等の鉄道事業当事者が運営または協力する施設が中心という状況にある。前出の「梅小路蒸気機関車館」「交通科学博物館」(JR西日本が運営)、「碓氷峠鉄道文化むら」(JR東日本が協力)、「地下鉄博物館」(営団地下鉄が運営)、「東武博物館」(東武鉄道が運営・東京都墨田区)、「電車とバスの博物館」(東急電鉄が運営)等がこれに該当する。そして今回ご紹介する「佐久間レールパーク」もまた、鉄道事業者・JR東海の運営なのである。

次へ

ライン


トップ