3.静かな山里の佐久間町、その玄関口・「中部天竜駅」構内に開設

 「佐久間レールパーク」の場所をまず知ってもらおう。住所は、静岡県磐田郡佐久間町中部で、静岡県と愛知県の県境に位置する、静かな山里の町である。
 佐久間町といえば「佐久間ダム」を想起される方も多いだろう。終戦後の混乱が続く日本で、その復興を支えるエネルギー源として、膨大なコストとマンパワーをかけて建設された電力ダムで、昭和31年(1956年)に完成した。その規模から、水力発電所としては依然日本一の発電量を誇っている。建設の記録映画を作成したのが今は無き岩波映画社で、作品は当時の全国の小中学校の社会科教材として「映画教室」等で広く上映されたと聞く。
 取材陣もこの取材の帰途に立ち寄ったのだが、地下水が流れ出しているいくつもの狭いトンネルを過ぎて、途中の落盤復旧工事に心細くなりながら、やがて眼前に開けるダムの規模や威容はもちろん、満々と水を湛えたダム湖のスケールと静粛感に圧倒されたのである。
 その佐久間町を南北に横断するのがJR飯田線である。  
 飯田線の詳細は
 ●JR飯田線ファンクラブ=http://www2h.biglobe.ne.jp/~t-ohsawa/iida/
  飯田線の情報、データ及び沿線各地の情報を網羅するJR東海のサイト
 ●魅力発見・飯田線=http://www.246.ne.jp/~mc-tc/
  同線の駅を中心に解説した水野宏史さんの私設サイト 

 佐久間町は、始発となる愛知県豊橋駅から鉄路でおよそ2時間の距離にあるが、取材陣が国道経由でアプローチした経験からすると、陸路に比較して所要時間はそれほどの差は開かないようだ。途中、夏休みとあって、所々に広がる天竜川の河原には、キャンプや水遊びに興じようとたくさんのファミリーが押し掛けている。

 JR飯田線は、豊橋市と長野県辰野市を結ぶ単線の山間路線で、車窓からの風景は自然に溢れている。そこで4月〜11月の週末や夏休み期間の毎日は、トロッコ列車が運転されている。トロッコ列車とは、貨物列車を改造した“フルオープンカー”で、当然エアコンなどの設備はない。天然の風に身を任せ、大都市生活では忘れてしまった緑の香りに包まれ、渓流とトンネルそして山間に点在する田舎家等の景観を背景に、移動そのものを楽しむ娯楽である。実はこのトロッコ列車、全国的に大人気で、専用の車両が制作されるほどである。

 なお飯田線の運転だが、途中の飯田駅まで「ワイドビュー伊那路号」が1日2往復している他はすべて普通列車である。この特急を利用すれば、「レールパーク佐久間」のある中部天竜駅まで、豊橋から約1時間強、すなわち名古屋都市圏から最短2時間での訪問が可能な場所ということになる。

 「レールパーク佐久間」は、中部天竜駅の構内にある。構内にある、というのは、おそらく元々の待避線や留置線、貨物ヤード等のスペースを有効利用したように見えたのだ。そのため、これという施設外観はない。多数の展示車両によって存在をアピールしている。入館料は140円で、2時間有効の入場券と同じ位置づけである。
写真1:入場券と同一の入館券


 この展示館が、どのような経緯で事業化されたかは不明だが、現在の飯田線の運転パターンを時刻表で参照してみよう。なるほど、中部天竜駅は飯田駅と並んで、同路線上の要衝として到着・始発駅の役割を担っている。つまり乗務員の交代や、車両を休めたり、付け替えたり等の運転所・機関区機能が必要で、鉄道黄金時代にはかなりの規模が置かれていたのであろう。電化され鉄道貨物も全廃された現代、運転頻度も往年よりは減っているだろうから、こうした機関区・運転所維持に必要な待避線等の用地は余剰になるのが現実である。そこで、土地再利用の命題が登場する。

 このプロセスは決して珍しいわけではない。全国どこでも、旧貨物ヤードが駅前再開発用地として、あるいは個人・法人向けの私有地用にと日本鉄道建設公団国鉄清算事業本部によって売却が進んでいる。もちろん、どこでもすぐに売れるわけではなくて、郊外ロードサイドに経済集積が形成された地方部の路線では、駅用地といえどもそう簡単に売却できないのが現状なのである。どうせ簡単に売れないのなら、期間限定の土地貸借事業化を図る等、様々な開発検討が成されるわけだが、結局、うまくいかない。生活者のニーズがなければ、収益事業は成立しないのである。最悪は、行政の救いの手が差し伸べられ、誰も利用しないが建設者の名誉だけは守られる公共施設が登場し、ランニングコストの増大という政治的な悪循環が起こる。ならば、草茫々でも放置状態にされていた方がまだましなのかもしれない。

 「佐久間レールパーク」を見た限り、はっきりしているのは、これが目玉施設となって飯田線の利用が増え、佐久間町への観光入り込みが活性化するとは期待していない点にある。であるというより「予想できる」と言うべきなのだろうが、その理由を挙げてみよう。

 1)開館日は土休日、ゴールデンウィーク、夏休み期間に限られる。つまり常設であっても常時開館ではない。さらに開館時間は10:00〜16:00と、昼間帯のみ。観光客が増えたときに、佐久間観光の遊びどころスポットのひとつとして、その楽しみを増やす位置づけにある。
 2)展示車両は、飯田線で活躍し引退した型式が中心で、飯田線好きの鉄道ファンにとっては興味も尽きないだろうが、一般の鉄道ファンにとっては量的に物足りない。つまり、一度の来訪で事足りるわけで、リピートはほとんど期待できないであろう。
 3)既存の引き込み線や建物をそのまま利用できれば、イニシャルコストが小さくて済み、経営の厳しいJR東海にとっては好都合である。

 立地する中部天竜駅は、佐久間ダムへのアクセス駅にあたり、同町の玄関口のように思えた。そうなると、町と飯田線というマストラの歴史は一体のものであり、その意味では鉄道資料館よりも、「鉄道の変遷を通じて佐久間町エリアの歴史と現在を認識する文化施設」と位置づけられよう。

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