鳥取二十世紀梨記念館(2)


○「倉吉パークスクエア」に53億円かけて建設

 南北朝時代からの城下町である倉吉市は、その面影を白壁土蔵群や商家の町並み、赤瓦等で今に残す、風情のある街である。そのため市内の散策も重要な観光メニューとなっている環境にあって、歴史を超えて未来を標榜したのが、この鳥取二十世紀記念館が建てられた「倉吉パークスクエア」である。1986年(昭和61年)に閉鎖された紡績工場の跡地14haを同市が取得、平成7年に跡地利用の基本計画「倉吉パークスクエア整備計画」を策定、1998年(平成10年)に建設着工の後、第2期計画施設を除いた11の施設が2001年(平成13年)にオープンしている。倉吉市民の交流、休息、レジャー機能及び広域を対象とするホール、文化施設のなかで、観光施設としての機能を発揮しているのがこの鳥取二十世紀記念館だ。ちなみに当初は学芸員を配置した博物館形態での整備を構想していたが、エリア全体の活性を図るために、観光施設機能を優先させた経緯があるという。

 事業主体は鳥取県、約53億円(建設工事約28億円、展示工事15億円、用地8億円、その他2億円)の事業費を投入した。その規模は用地面積約15,829平方メートル、RC2階造、延床面積5,400平方メートルとなっている。1993年(平成5年)から1999年(平成12年)までの7年間を事業期間として、2000年(平成13年)4月27日にオープン。現在は(財)鳥取県文化振興財団により、宮本京子館長以下14名の職員で運営に当たっている。


倉吉パークスクエアの全体配置図(「倉吉パークスクエア 整備概要」より)



○梨をテーマにする展示施設としてはわが国唯一の空間

 鳥取二十世紀記念館の公式サイトには、館内の展示状況が紹介されており、だいたいの雰囲気が掴めるだろう。ここでは梨に関する状況、「ナシ百科」にある「鳥取二十世紀梨ものがたり」をぜひ参照してもらいたい。二十世紀という品種はもちろん、梨全般について豊富な情報がまとめられており、梨のトリビアでもお任せ、間違いなく新しい発見があるだろう。その上で実際に記念館を見学すれば理解度・満足度ともに確実に満たされるはずだ。

 以下、公式サイトであまり説明のない要素として、施設のポジショニングについて紹介する。「鳥取二十世紀記念館設置条例」で同館の役割は、「梨に関する産業、歴史及び文化への県民の理解を深めるとともに、観光及び果樹の振興に資する」と示されている。そのために、1.国内外の梨に関する情報拠点、2.生産者と消費者の交流拠点、3.魅力あるアミューズメント性を備えた観光施設としての機能が導入された。特徴(同館ではコンセプトと言っているが)は、梨をテーマにする展示施設としてはわが国唯一の空間というオリジナリティにある。3つの施設機能に対応して、来館ターゲットは「二十世紀」梨の出荷地域に同調して、京阪神、岡山方面の団体客および子供連れに置いている。
 設計・デザインは、シーザー・ペリ氏で、同館のみならず倉吉パークスクエアの全体を担当している。


○ドーム状の空間は他の施設と複合・一体化

 「倉吉未来中心」(ホール)から、木構造で高さ42m、面積1,700平方メートルの規模があり、倉吉パークスクエアのランドマークとなっている「アトリウム」」を介してこの鳥取二十世紀梨記念館まで一体的な動線が確保されている。
 記念館は直径55mになるドーム構造だ。そうした理由は、入館後、最初に目に飛び込んでくる、吹き抜けのフロアの中心部に展示された、国内最大級の二十世紀梨の巨木を見れば分かる。その枝の広がりは最大20mにも達しており、補強を加えて実際に生育していた形状を伝えている。展示空間にはその大きさ(枝の広がり)に対応した円周が必要だったのである。1999年に掘り起こされるまで樹齢74年、最盛期には4,000個の二十世紀梨が実っていたという。この巨木が同館=二十世紀梨のシンボルであり、天井では朝日から月夜までの時間の変化を光で表現する演出を加えている。


○2階建て、屋外には「梨ガーデン」

 展示は、体系的な訴求を意識したゾーニングよって構成されている。1階は、梨についての総合的な理解を体験しながら形成していく場、2階は企画展示およびレストスペースとライブラリーとなっている。その上で、「梨とは」→「梨作りとは」→「梨の楽しみは」それぞれ何かを、展示スペース毎に異なる演出表現によって訴求する。家族連れを意識して、子供向けに「梨ミュージアム探検ノート」や二十世紀梨づくりに特化した「梨作り体験ノート」といった設問シートが提供され、1階から順路に従って展示を見て(該当の展示を確認して)、設問に答えながら(空欄を埋めていく)理解を深める、記念スタンプを押して思い出に持ち帰るという仕組みもある。
 さらに屋外には、2004年に再整備されたという約1,600平方メートルの「梨ガーデン」があり、野生の品種、明治時代以前の品種、二十世紀梨、中国産等の多数の品種が育てられている。成長して様々な実を付けるシーズンが楽しみであるが、“梨もぎガーデン”ではなく、あくまでも梨の木の比較観察が目的である。「ホクシマメナシ」、「マメナシ」のように、渋くて食べられない品種もあるのだ。



1階の中央吹き抜けに記念館のシンボルツリー、樹齢74年の二十世紀梨の巨木を配置


2階から見た巨木




資料展示室」では民具や梨づくりの歴史を学べる


「梨ミュージアム探検ノート」

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