●3Dドラマシアター

 江戸城見附は「3Dドラマシアター」である。ここはNHKエンタープライゼスが手がけている展示館で、時代劇のロケや製作の裏側をハイビジョン立体映像で紹介する。また、時代劇の撮影で使用される日本刀や甲冑、クレーンなどの実物が展示されている。
 ドラマ映像は7分間で、入場までは入口の前で待ちながら、掲示資料などを眺めて番を待つことになる。案内パンフレットでは、観客はみな四角いサングラスをかけており、東京ディズニーランドなどで使われているプラスチック製のサングラスをかけるに違いない、との推測通りだった。シアターは約50席の規模で、順番待ちが15人程だったこともあり、ゆっくりと座ることができた。
 さて、その内容だが、NHKが大河ドラマや時代劇などを撮影する際の俳優やスタッフの仕事ぶりを紹介するというもの。その中心は合戦のシーンで、メイクをしたり、スモークを焚いたり、撮影したりの奮闘ぶりが紹介される。外国人の男性が案内役となり、3D画像の中を縦横無尽に動き回って製作の様子を紹介していく。これだけならあまり3Dを使った意味がないんじゃないかな、というのが率直な感想である。3Dらしい、思わず手を伸ばしてしまいそうな、リアルで迫力のある映像を期待していたのだが。
 その他、地元の茨城県伊奈町の住民が大河ドラマのエキストラとして登場している様子を紹介していた。
 以上、ここは要するにNHKのPRコーナーであった。




3Dドラマシアターの展示その1。撮影に使用するフィルム等



その2。日本刀と甲冑

●国際交流館

 外に出て、江戸城大手門へ向かう。門をくぐると右手にあるのは「国際交流館」である。“失われつつある日本と世界の貴重な歴史・文化を紹介する館”となっている。ここでは、写真家並河萬里氏による世界的遺跡の写真展が開催されていた。タイトルは「祈りと群像・対話」。イスラムやアジアなど世界各地の遺跡や教会などの写真があり、点数的には若干物足りなさを感じたが、それなりに興味深いものであった。

 国際交流館を出てさらに奥に進むと、日本庭園がある。小道があり、休憩ができる東屋が設けられていた。庭園としてはあまり整備された様子ではなかったが、江戸城の中で静かに時を過ごすという趣向は、歴史の中に身を置いた気分になれるような配慮であると受け止めた。

 大手門の内部は、白い石が敷き詰められ、周囲を石垣にぐるりと囲まれた、ただ広いスペースである。ここは撮影用のために機能しているのだろう。大手門を出た広い通りの奥も簡単な囲いが置いてあり、人の立ち入りをやんわりと禁じている。これもまた撮影利用に配慮しているためだろう。せっかくの江戸の風景なのに、この囲いは興ざめである。人が踏みつけると敷石が傷むとか、なにか理由があるのかも知れないが、景観を重視していただけるなら、囲いを撤去することをぜひご一考願いたい。
 大手門を後にして、にぎやかな町並みへ向かうと、通りでは露店が出ており、人が集まっている。ようやく江戸の雑踏を垣間見た、という感じがする。子供連れのファミリーが目立った。
 ここからは有料の展示館が続く。今までの展示館は序の口、これからが本番、という気持ちでまずは「音の館」へ。

●音の館

 ここではまず入口で係員の女性からコードレスヘッドホンを受け取り、利用についての簡単な説明を受けてから中に入る。最初から感じていたのだが、園内の係員はほとんどが若い女性で、しかも非常に親切でフレンドリーだけど慣れ慣れしくはない。丁寧に応対してくれるため、大変気分良く見学できたと思う。
 ヘッドホンを付けて中に入ると薄暗い部屋に続く。館内のほとんどは黒一色といってよい。取り立てて何かの装置があるようには見えない。さらに奥に進んでいくと、いきなり音が聞こえてくる。雑音が突然クリアな音声に変わった場所に立ち止まって耳を澄ます、という仕組みになっているのだ。
 ここは、“音から伝わる江戸伝統文化や自然の音が楽しめる”展示館なのである。例えば、江戸の通りで会話をしていたかと思うと、意見が対立して喧嘩が始まってみたり、“江戸の花”火事に逃げまどう悲鳴がしたり、花火がドドーンと上がってみんなが「たまやー」と声をかけて拍手喝采していたりする。また、腰掛けて波の音、小川のせせらぎ、セミ時雨をじっくり聞けるところもある。


大手門



大手門をくぐると、国際交流館の入り口がある



日本庭園の東屋



白い囲いの中は撮影用スペース?



有料展示館、露店などが並ぶ通り
 音だけではない。火事の場面では赤いライトが照らされ、花火の場面ではライトが点滅し、海の場面は青いライトがほのかに灯される。江戸時代は騒音が少なく、人の声や草木の擦れる音、水の流れる音がはっきり聞こえていたのかも知れない。目を閉じて耳を傾けるとヒーリング効果抜群である。そのほか、歌舞伎の一場面のせりふ回しや、刀鍛冶が槌を振り下ろす音なども聞くことができた。

 マルチメディア性にこだわらず、音だけで江戸文化を楽しむという趣向は面白いと思うのだが、ここでは敢えて苦言を呈したい。というのは、この展示館にはかなりの制作費がかかっているとの推測は難くないが、全体的にチープな印象なのである。特に喧嘩のシーンでは、怒号が飛び交っていても別に現代の罵りあいと何ら変わらない口調である。「火事と喧嘩は江戸の華」ではあるが、せめて江戸弁(「さしすせそ」がうまくない)であるべきで、現代の標準語やテレビ時代劇言葉を使って耳元で「バカヤロー」と怒鳴られて、これが江戸だと言われても困ってしまう。遊びの要素があっても、歴史検証をもっと的確にすべきである。それに、よく聞くと、どんなシーンでも声の出演者はほとんど同じである。
 音で楽しむのだから、とハードにはあまり手をかけていないようにも見えてしまう。黒い壁に鉄骨がむき出しの天井ではなんとも味気ない。
 次々と“江戸らしいもの”の音を聞いて出口まで10分とかからなかった。江戸をテーマとする文化施設を知る取材班としては、かなり欲求不満を感じる表現構成であった。

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