1.経緯
○国内有数の夕張炭鉱は12万人の都市を形成
黒いダイヤとして、明治以降の産業近代化を支えた石炭。わが国では、最盛期には900近い国内炭鉱が操業していた(表1参照)。なかでも北海道は、120を超える炭鉱があり、そこで働く者のために街が生まれ、伝統が作られ、やがて文化が定着するようになっていた。石炭は北海道の開拓史を語る上で重要な位置にある。
ここで紹介する「夕張石炭の歴史村」の前身となる夕張炭鉱もその中のひとつで、明治7年(1874)、アメリカ人鉱山地質学者ベンジャミン・スミス・ライマンの探検隊が夕張川上流の炭鉱地質を調査、その後明治21年(1888)、道庁の技師坂市太郎が志幌加別川の上流で石炭の大露頭を発見したことから歴史が始まる。明治25年(1892)の炭鉱開始以来、自然発火やガス爆発などによる大事故や自然災害などに悩まされながら、国内有数の炭鉱として成長。炭田の城下街・夕張は最盛期には12万人の人で賑わっていた。
しかし、安価な海外炭や石油へのエネルギー政策の転換により、国内の石炭産業は縮小の一途をたどり(グラフ1参照)、夕張でも24山を数えた炭鉱も平成2年(1990)の「南大夕張」の閉山を最後に、“炭鉱の街夕張”の歴史に幕を閉じたのである。
○炭鉱閉山後に離散が止まらないのは北海道の特徴
石炭によって形成され、それが失われた町は、急速に集積性を失う。元々人が存在しない北の大地に石炭層が発見され、当時は高給が保証されていたことから、石炭採掘に各地から人が集まってきて、やがて町が形成された。特に北海道の炭鉱町はこれが顕著だ。
しかし、北海道以外の炭坑のほとんどでは、元々人が住んでいた場所で石炭が発見され採掘が始まったという違いがある。このため北海道では、炭鉱の閉山によって人が離散、町が急速に縮小してしまった例が多い。夕張市でいえば、平成14年(2002)5月末現在、人口は15,000人を切っている。
項目
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1951年度
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2000年度
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炭鉱数
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大手坑内掘り
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2炭鉱
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露天掘り
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11炭鉱
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従業者
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2,672人
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生産量
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297万t
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表1 国内の石炭鉱業の推移(エネルギー生産・受給統計年報)

図1 上:炭鉱黄金時代は短く(石炭の村公式サイトより)
○町の再生に向けて観光・レジャー都市化を選択
人口減による急激な過疎化が進み、石炭に変わる求心性のある産業誘致に取り組むため、夕張市は「炭鉱から観光へ」を合い言葉に、「ゆうばりマウンテンシティ計画」(注1)を策定し、観光・レジャー都市として再生していく計画がスタートした。
この観光都市化を象徴する施設整備の第一弾が「石炭の歴史村」(以下歴史村)である。歴史村は、まず昭和55年(1980)に「石炭博物館」を先行オープン。そして市制施行40周年に当たる昭和58年(1983)にアミューズメント施設を含む現在の形が完成した。
「石炭博物館」には、当時の炭鉱内部を再現した模擬坑道が作られている。ここは、昭和29年(1954)に昭和天皇・皇后両陛下が夕張を訪問された際に整備された坑道で、この有効活用という意味もあったという。
当時は、北海道の土地柄から、屋外施設は雪の影響で半年しか見通せないことから、札幌市内にさえ屋外レジャー施設が存在していなかった。そのため、夕張での遊園地オープンは、北海道初の本格的なアミューズメント施設となり、大変好評を得たという。
気をよくしたせいか、その後、市内の至る所に夕張市の主導によって観光・レジャー施設が造られ、また夕張メロンまたはその加工品のメロンワインやメロンブランデー、メロンゼリーなどの特産物開発、国際映画祭などのイベントを開催するなど、観光一色の街へと変貌を遂げてきた。
歴史村でも、平成12年(2000)にゲームセンターを「ゆうばり化石いろいろ展示館」にリニューアル、平成13年(2001)には「郷愁の丘ミュージアム」の第一期「生活歴史館」をオープンさせるなど、徐々に施設をリニューアルや新設で活性化させることで、リピートを狙っている。
○年間50万人、団体が7割を占める入込
実は、歴史村の敷地は、「北炭(北海道炭礦汽船株式会社)夕張炭鉱」の選炭場城や積込などの石炭関連施設があった場所である。しかし、閉山が決定し、北炭が夕張を撤退するときに、作業を停止したそのままの状態で設備類が残されてしまい、解体からの整備が必要となった。他の三菱や住友などの旧財閥系の炭鉱は、撤退時には整地まで行なっていったという。スクラップされた状態がよかったのか、ひょっとすると遺構の状態に価値があったのでは・・・当時は誰もそのようには考えられなかったと夕張市では説明している。
現在、歴史村の入り込み数は年間50万人、団体と個人客の割合は3:7で、団体はツアーと修学旅行客がほとんどだという。

図2「石炭の村」以外の夕張市の観光集積状況
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