加悦SL広場 レポート(3)

○周辺の河川公園等と一体整備

 園内にどのような展示があるのかは公式サイトを参照して頂くとして、実際にその場を足を踏み入れてみると、実にリラックスできる空間であるとの印象を持つ。この広場は国道と河川の野田川に挟まれた位置関係なのだが、河川側の方が低く周辺を見渡せる(俯瞰できる)。しかも同園に沿って野田川は親水公園として整備されている。非常に一体感があるのは、同園の整備と同時期に京都府の委託でカヤ興産の手で整備を行ったことによる。そこには桜の木が植えられ、春は花見の名所としても知られているという。
 さらに川の流れや野鳥の鳴き声など、自然のサウンドスケープも素晴らしい。閑散時に園内を歩くと、静態展示の車両群はまさに自分の庭を演出するツールかのように錯覚しそうになった。

○民間企業が自立で運営

 カヤ興産の親会社にあたる日本冶金工業は、ハウステンボスと関わりがあって、出向者を出すなどしていた。その体験で得たノウハウを同園の運営に反映させると共に、「加悦鐵道保存会」のようなボランティアとのネットワークを活用しながら、運営の活性化に努めている。ちなみに経営はカヤ興産(株)が手がけており、加悦町の資本等は入っていない完全な民間施設である。

 現在の入場者数は年間2万人台である。評価すべき数字だと思う。5月のゴールデンウィークと8月の夏休み時期をピークとして、冷え込む冬季を除く3〜11月の週末・祝日の勝負である。また、加悦町はちりめん緬の里として加悦町は歴史もあり有名のようだが、この丹後半島付近はどこでもちりめんを扱っている。観光目的地というよりも、丹後地域の周遊地のひとつだろう。だから「ついでに訪れた」パターンがどうしても中心となる。そして、いわゆる鉄道のテーマパークの集客ポテンシャルだが、残念ながらそれほど強力な磁力はない。熱心なファンやマニアが存在するが、集客の頭数としては絶対的に不足している。こうした、いわばアゲンストな状況にありながら、一定の数字を残しているのは、コストを意識したオペレーション(自分たちができることは自分でやる)、徹底した情報発信(マス広告はオープン時のみ、最近はホームページがメインだが、きちっと更新・発信を続けて月間1,800件以上のアクセス)もあるが、それ以上に「加悦鉄道」へのこだわりが功を奏しているものと見る。この場所で、東海道新幹線や阪急電車を見せても、イベントに終わってしまうだろう。地域の風土・歴史の積み重ねが表現されているからこそ、ファンとしてのリピートが増えているのである。多くは子供連れのファミリーだが、往年を思い出して目を輝かす地元在住あるいは以前同町で暮らしていた、あるいは働いてた等関係のあった中高年齢者が増えているのである。

○「回想法」の舞台として福祉に活用が可能

 弊社刊「レトロの集客活性力」に詳しいのだが、地域の栄枯盛衰と運命を共にした鉄道車両、特に地域にとってその鉄道が大きな役割を果たしているような場合、それは「回想法」=高齢者が回想に伴う思いをめぐらすことにより、脳を活性化させることで痴呆防止を図る=の舞台、機会としての効果が認められる。高齢者のグループが展示車両を見て、「自分が若い頃この客車に乗って毎日仕事をしていた。最終列車の客はみな顔なじみだった。そういえばあの学校の先生はどうしているかなあ」すると「ひょっとして○○学校で教えていた△△先生かい?あの、いつもベレー帽をかぶっていた」「そうそう」「あー、あの先生は○○町にいるよ」等、会話が弾むことで脳が活性化し、ボケ防止にもつながるというわけだ。だから、回想法のミーティングでは、思い出を探すプロセスで目が輝き、時には涙することになる。

 これがもし東海道新幹線なら、確かに上京話等でいったんは会話は進むが、共通するテーマが見つからず、すぐに飽きられるだろう。地域性があるからこそ、自分、友人、学校、親戚、行事等ありとあらゆる共通テーマが見つかるのである。

 日本の高齢化は避けられない。また、加悦町にしても平成の大合併により昔からのアイデンティティがどこまで維持されるかはわからない。だからこそ地域の発展を見続けてきた加悦鉄道の遺産を、もう一度地域を認識する回想空間、福祉施設としての利用も有望ではないだろうか。



春は桜の名所となる河川公園


空間的に広がりがあってリラックスできる


「加悦鉄道」にこだわった展示車輌1


展示車輌2。一部は車内を開放している


場内周遊ミニ列車「ロケット号」。親子の滞在を飽きさせない鉄道公園の王道

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