加悦SL広場 レポート(4)

○のどかな風景を楽しめるサイクルロード

 取材終了後、旧路線をそのまま町が整備したサイクリングロードを、SL広場から終点の野田川駅(鉄道運行時は終点の一つ前)までレンタサイクルを借りて走ってみた。レンタサイクルは隣接の「道の駅 シルクのまち かや」に用意している。ところが利用者は珍しいようで、我々が借りた自転車は蜘蛛の糸が車輪を包み、サドルは汚れ放しの状態だった。残念ながらクリーニングはしてくれず、かといって雑巾も貸してもらえず、手持ちのハンカチとティッシュで簡単にクリーニングしての出発となった。有料メニューである以上、利用者の多少を問わず、常にクリンネスを保つのは常識のはずである。それがお客様商売というものだ。
 サイクリングロードでは途中、多くの中・高生や買い物帰りの主婦等の自転車とすれ違い、生活道路として定着している様子がうかがえた。また、畦の水路では子供達がどじょうやフナを網にかけて歓声を上げている。その姿に、自分のその時代にタイムスリップしたかのような強烈なノスタルジーを感じた。ひょっとして、鉄道だけがこの町で消えてしまい、あとは何も変わらないままゆっくりと時間が過ぎているのではないだろうか。生まれた場所は違っても、自分にとっての田舎の原風景・原体験がこの景観から蘇ってくる。

○鉄道跡の演出が欲しい

 サイクリングロード自体の演出だが、鉄道路線跡を意識している身にとって、その痕跡が全くないというのも期待はずれである。せめて、「旧○○駅跡」のサインや当時の駅風景がわかるような銘板が欲しい。また、途中に「旧○○駅までh1.2km→」といった距離表示も効果的だろう。また、途中の加悦駅跡、あるいはサイクリングロードに隣接する壁面等を利用して、当時の列車の側面写真をプリントしてはどうだろう。鉄道を知らない新しい世代であっても、それがなぜ示されているか、地域を再発見するフックになりはしないか。そして終点の野田川駅ではレンタサイクルの進路を明確に示すべきだ。というのもサイクリングロードは駅の先まで続いているのだが、レンタサイクル管理所のある野田川駅に向かうには途中サイクリングロードを外れなければならない。その意味がわかるサインが見あたらず、大きく迂回する形で野田川駅に戻ってしまった。なお、レンタサイクルはサイクリングロード専用ではなく、加悦町を自由に走ってもらうのが目的だ。町の各所に「サイクルステーション」が設けられ、どこでも貸出、返却に対応する。サイクリングロードでは、途中の旧加悦鉄道加悦駅舎(加悦町役場前)に設けられているが、総延長10km強、高低差も小さく直線の多い線形にも関わらず、終点の野田川駅まで“完走”するも日頃の運動不足を痛感する翌日となったのである。



サイクリングロードのサイン


駅跡の痕跡は全くわからない


すでに生活道路化している


○地元意識と一体感が事業の原動力

 多くの私鉄が営業に見切りをつけた昭和40年代。加悦鉄道はそれでも昭和60年代まで生き残っていた。末期は赤字続きで廃止は遅すぎたくらいだったという。貨物輸送もない10Kmにも満たない盲腸線、接続する旧国鉄宮津線まで北近畿丹後鉄道として第3セクター転換を余儀なくされたほどの輸送需要の縮小化にあって、この小さな私鉄がそこまで命脈を保てたのは、やはり加悦町という地域との一体性が強固だったからであろう。その喪失により地域もまたそのアイデンティティを失うという危機感が、現在の「SL広場」開設の原動力のように感じたのである。


始めに

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