大分農業文化公園・「パークアルカディア」(7)


7.活性化のために

○広い規模を前提とした、来園者への事前案内が不足

 森課長のクルマによる案内がなかったら、営業時間内に半分も見終わらなかったぐらい、広大な敷地である。個人のホームページに訪問記がたくさん掲載されているが、「広すぎ」「一日居てもまだ見終わらない」等の意見が目立つ。園内の移動手段は徒歩が基本で、レンタサイクル、一部「電動トラムカー」である。しかし徒歩で園内一周するだけで1時間以上かかる。これが子供連れやお年寄りだと1時間半以上であろう。もちろん、歩くことは健康にいいのだが、閉園時間が近づいてきたら、現在地からエントランスまで戻る時間を計算しながら遊ばなければならない。やはり「電動トラムカー」を循環運転させて、要所に停留所を設けるなど、移動手段の充実が必要であろう。さらに、あのサウンドスケープづくりのための大音響は、乗客はもちろん、釣り客や、芝生で昼寝中の客にはひんしゅくをかうと思うが・・・。

○「農業文化」の解釈が具体的に到達せず

 また、個人のホームページには、「堅いイメージの“農業文化”はどこにあったのだろう?」「貸し農園があるだけで農業公園?」といった疑問が見られる。実際に入園してみても、印象として(意識している人もいるであろうが)、名称になっている「“農業文化”はどこにあったのか」ということは否めないであろう。
 それは、“農業文化”を表現・体験・学習するチャンスは、「研修館」「クラインガルテン」のみで、それ以外は“公園”“アウトドアスポット”色が濃い。さらに、農業体験が可能な2施設を利用するには申込制という限定である。ゆえに来園客が大半は、ほとんど意識外になってしまう。設立のきっかけとなった平松知事推薦の「アグロポリス博物館」とは、ほど遠いのが現状であろう。

 このように、“農業文化”に触れることは容易ではない。しかし、県民がだれでも楽しめる“公園”という場の提供としてみると、かなりの充実である。これが、現在の人気につながっているようだ。

 農業色が薄められている印象は、どこに原因があるのだろうか。

○「取れたて」「新鮮」農産物を販売すべき

 まず、大分県の農産物、公園近隣農家もしくは公園産のモノを強く押し出していないことがあげられる。他の農業公園やファームパークでは、“地元農家の野菜”“当公園産の焼きたてパン、手作りソーセージ”などをはじめ、地元名産食材またはそれを使ったオリジナル加工品を購入、食することができる。そして来園客はそれを通じて、地元の農産物のとれたて、できたてのおいしさを楽しむことができるとともに、地元の名産を再認識する仕組みがある。

 これをきっかけとして、「農作物はどうやって作るのだろう」「どうしてカボス、ユズ、ドンコが大分の名産なのだろう」等の疑問を持ち、それが農業を知る第一歩となるはずだ。さらに、“園内名産品”のおいしさが広がれば、集客が活発化し、地域活性の一助ともなる。





イベントで集客を徹底する




ユニバーサルデザインは先進県大分らしい


 次に、園内で育成して鑑賞、試食できる農作物が、季節にもよるが果樹園のみである(生花、ハーブもあるが、これを育てて販売・進呈しないため、公園の観賞用植栽と判断)。やはり野菜もあってこそ農業ではないだろうか。季節の旬、ビニールハウスで育てた一年中収穫できる品種、そしてたわわになった実り具合を見ることだけでも、農業学習の第一歩になる。さらに、ここでの収穫を購入して(できたら自分で収穫できて)オートキャンプやコテージで、自分たちの手で料理して味わえることができれば、これも呼び物のひとつになるだろう。

 東園長は、「今後、子供に人気のカブトムシドームを新設予定です。また、オープン以来、あまり人気がなかったハーブ園、薬草薬木園のリニューアルを現在行っています。そして将来的には、ハーブ園は食することができる施設を、薬草薬木園は、実際に効能をお客が試すことができるような施設をつくりたい」と、そのあたりの問題意識をお持ちのようであった。しかし、税金を投入して建設した施設である以上、オープンしてまだ1年そこそこでリニューアルを言うのは不謹慎でもある。行政の限界である、マーケティングとコミュニケーション意識の欠如がこうした結果となる。

○魅力的でインパクトはあるが「花」頼みの脱却を

 さらに「花は老若男女関係なく人気があります。そこで草花はもちろん、ツツジなどの花木まで充実させて、年間を通じて様々な種類の“花”を常に見ることができるように、現在、少しずつ植え替え中」(東園長)だという。

 もうとにかく苦しいときの「花」頼みが日本の集客事業のセンスである。農業公園に限らず、テーマパークや商業施設等でも、“花”をテーマとしたイベントの盛況事例を多数コンサルされているかのもしれない。
 ここでも、単に観賞用植栽として短期にカネをかけるだけではなく、実際に入園者が苗を植える体験や、温室栽培の様子を見学できる施設、県内の農家で育てた農家名表示の花木販売や配布などの、農業との関連づけを意識してもらいたい。
 もちろん、ここを訪れた人の意見として、「とてもよかった。今度はお弁当を持って、朝から一日ゆっくりしたい」と満足の声も多数見かける。高速道路アクセスに恵まれ、“安・近・短”の条件に合っている。このまま、“癒し”としての機能をさらに充実させてもらいたい。ただし、この、“癒し”と“学習・体験”は、どちらに比重をおくかにより、利用動向が変わってくる可能性もある。舵取りが非常に難しいのが公営の農業公園の宿命である。さらに “住民が望まない箱モノ”への批判が高まっている昨今、同施設のように公共の色が濃い施設こそ、もう少し“学習・体験”へ力を入れても良いのではないか。“学習・体験”は、学校週休二日時代のカリキュラムともなれる。
 好調の今こそ、次を見据えた運営戦略構築を急ぐべきであろう。


※書籍「レジャーパークの最新動向2002」(2002年8月発行)の記事を掲載しています


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