建物は「デザイン」的訴求をいっさい排除した、電車の車庫という風情でもなく、内外観ともに体育館を思わせる、いかにも公共的なローコスト建築である。
オープンして比較的まだ時間がたっていないことや、交通局の工場内にあるという環境もあってか、同館内外のクリンネスは十分に保たれている。まさに“電車っぽい”リノリウム床には、天井窓からの自然光とライトアップ用の照明が複雑に反射している。
落書きなどに無縁の展示車両は「新車」同様で、また、壁面を利用して展示されている資料類には日焼けもない。高い天井からは、展示車両が当時走っていた路線の方向幕が下がっている。地下鉄のような大型車両が2両編成で展示されているとはいえ、高さ・広さが確保されており、圧迫感はほとんど感じない。
この「レトロでんしゃ館」の正式名称は、「市電・地下鉄保存館」である。その名が示すように、延床で742.25平方メートルの平面に、往年の名古屋市電を代表する3型式3台と、昭和32年の地下鉄開業とともに走り出した電車1形式(2両編成)が、きれいに化粧直しをされ、静態保存されている。
展示車両を、写真や資料類をパネルにした「展示コーナー」が挟むレイアウトである。そして、鉄道関係の資料館に最近顕著な“公式”のとおり、エンターテイメントとして、名古屋の地下鉄路線別の「列車運転シミュレーター」4台が設置されている。
われわれが訪ねた日は猛烈に風が冷たい冬日であった。そのため、同館の暖房と、天井や壁面の窓ガラスから差し込む日差しが冷え切った体をやさしく暖めてくれた。しかし、どうやら夏はその逆・・・ともいかないようだ。冷房のダクトは、電子機器が集まった「列車運転シミュレーター」付近にのみ配置されている。どうやら、基本は窓からの自然空調らしい。それでも、何の文句があろう?展示されている電車が活躍した頃は、通勤電車に冷房などはとても珍しい時代だったのだから。追体験のための環境演出として、ここは入場無料であることにも配慮して、四季を受け入れようではないか。
|
図1 駐車場と工場内のサイン類
図2 レトロでんしゃ館の外観
図3 クリンネスが行き届いた内装
|