厳冬続く地方のレジャーパーク 資本充実・経営強化でも限界か?(1)
2005年12月29日  


 空間通信では書籍の第1号として2002年秋に「レジャーパークの最新動向」を発刊した。当時、バブルからの“失われた10年”がようやく終焉を迎えたかに見えた新ミレニアムにおいて、ハウステンボスやシーガイア等の再建が進み、総合学習の導入による体験型社会施設、いわゆる産業観光が注目されていた。そこで私たちは、再起やリニューアルに挑む各地のレジャー施設、ブームが到来していたファームパーク、鉱山や炭坑後の地下空間を集客施設化したマインパーク等に注目して、その経営とマーケティングの実情をレポート。それぞれの施設が、巧拙あるものの様々な集客施策を展開している状況を見た。

 それからわずか4年。発刊当時の日韓共催のワールドカップの記憶は薄れ、今度はドイツ大会の話題で持ちきりの2007年。改善が期待されたレジャーパーク業態は、一部を除いてこの冬のように、厳しい状況にある。“勝ち組・負け組”ではないが、現代を生き抜ける施設は、徐々に限られてきたかのように見える。その要因として、天候不順や変動という構造的な問題もあるだろうし、また立ち直るには時期が遅すぎたケース、責任が曖昧のまま命脈立たれたケース等がある。(表1・次ページ)

 基本的な問題として、既に日本人は団体で何かをすることに飽いているのではないか、個人というユニットで楽しむのに現状のレジャーパークはほとんど対応していないのではないか。さらに、株価が上がって万々歳、堅調な高額消費の担い手は本当に限られており、彼らはこうした施設にはそもそも来ない。むしろ多くの、これまでのレジャーパークの利用主体であった層は、消費抑制から静かに確実に消費選別を行い、こうしたレジャー活動は見事にカタログ落ちしてしまったのではないかとの仮説である。そして恐ろしいのは、失敗の理由として当事者のほとんどが「少子高齢化」を挙げている。高齢化は日本人が避けて通れない社会問題なのだが、そうなると「少子高齢化」の影響のないレジャー施設とは何かという議論に結論を出さねばなるまい。

 それでは、厳冬期の地方レジャーパークに春が訪れるのであれば、どのようなマーケティングに取り組むべきだろうか。ケーススタディとして、既刊「レジャーパークの最新動向」から、3つのレポートを紹介する。

 第一の事例は北海道帯広市のテーマパーク「グリュック王国」である。取材した時点で、既に経営は限界を迎えていたように思う。現在、新聞報道によれば資金難からゴールデンウィークから夏期までの営業もままならず、医療事業展開を計画する東京の投資会社に施設の一部を貸し出して、「アンチエイジング医療」による長期間滞在、保養しながら同医療を受ける事業を導入する等して施設を運営させる意向だという。しかし既に公式ホームページも閉鎖されており、それが実現したかどうかはわからない。新しい局面は2006年の春を待つしかなさそうな状況である。王国建設の経緯、そして取材のドキュメントから、本物志向ほど資本が必要で、あわせてヒトの要素はそれ以上に大事であるという基本原則が見えてくる。

 第二の事例は「マインランド尾去沢」(青森県鹿角市)である。1981年に尾去沢鉱山の坑道跡探検を中心とするマインパークとして整備、小規模ながら遊園地を併設するなどしてピーク時には70万人の集客を集めた。この成功を見て、各地の鉱山跡が次々にマインパークとして再生したのである。しかし、「何もない静かな時間を楽しむ」ことが消費につながりにくい日本で、運営する第三セクター「尾去沢鉱山観光」は2006年1月1日付で事業を清算、三菱マテリアル全額出資のゴールデン佐渡(新潟県佐渡市)が債務を引き取り、営業を続けることになったという。幸にして閉園には至らなかったものの、では先行きはどうかといえば楽観視は禁物である。立地的に冬季の営業は厳しい。もはや気に入るかいらないか、それは個人の感性次第であって、残念ながら気に入ってリピートする層は限られてしまうというのが実感である。それでも、ぜひがんばって頂きたい。それだけの価値はあると編集部では認識している。

 そして第三の事例は、大分農業文化公園・「パークアルカディア」である。2001年4月21日に86億円の事業費を投入してオープンした、敷地総面積約120ha(うちダム湖37ha)、東京ドームの約24個分にもなる、わが国でも最大規模の農業公園である。開園に合わせて、大分空港及び大分自動車を結ぶ有料道路・別府宇佐道路に「大分農業文化公園I.C」が開設され、県内外の広域アクセスも可能にした。しかし大分県では、県財政の悪化を受けて、「大分県財政改革プラン」において「大規模施設等の見直し」を打ち出した。前知事時代に整備され、本誌でも取り上げた(その将来を危惧した)「大分香りの森博物館」は閉園・売却、そして「大分農業公園」も利用促進のため、2005年1月から入園料を無料化した。この結果、年間来園者数は01年度46万人をピークに、02年度27万人、03年度19万人、04年度17万人と続いた減少傾向に歯止めがかかったのである。この他、農業公園らしさを訴求したイベントを実施するようになった。実は好調なファームパークを見ると、規模でも装置でもなく、等身大の世界に手作り感にあふれた体験機会が多数用意されており、それが人気を集め、名産品としてヒット商品に成長するサクセスストーリーが必ず見かけられる。限られた運営費のなかで、来場者との親近感をどれだけ演出できるか。巨大農業公園は岐路に立っている。



■2003年〜2005年 新聞報道等によるレジャーパーク閉園の事例(表)

■事例1 “イバラの道”続く「グリュック王国」


■事例2 マインランド尾去沢

■事例3 大分農業文化公園「パークアルカディア」