赤れんが博物館 レポート(4)

 取材しての印象をまとめておこう。まず、同館は2階建て、延床面積842.44uで、内部の展示室はコンパクトである。使用しているレンガはフランス積みと呼ばれる方法で積まれており、2階の窓枠、柱、床板などは建設当時のものだ。さらに米国カーネギー社製の鋼鉄材を使用した施設としても最古クラスになるという。

 1階はれんがについての基本的な知識を得る場である。まずれんがの歴史を4大文明に遡って解説。その上で、万里の長城や古代ローマ遺跡など、世界的なレンガの建造物を紹介する。れんがを焼くホフマン式の「れんが窯」を再現したシアターでは、そうしたストーリーを映像で確認できる。展示品はすべて実物で、古代ローマの公共広場に使われていた「フォロ・ロマーノ」、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂に使われているもの、ローマ時代のイギリス・ドーバーの城壁に使用していたもの、万里の長城に使っていたものなど、世界各地から25品以上を展示する。舞鶴にフォーカスしたローカルの展示だと思っていたのだが、最初から世界遺産を見せられたようで、その本格性に驚いてしまう。

 順路となる2階では、日本と舞鶴のレンガにフォーカスする。中国大陸から渡ってきた日本のレンガの製造と活用の歴史がパネルや模型、実物等で解説されている。天平時代の実物展示もある。そこから、ようやく舞鶴市とレンガについての歴史やパノラマ、模型等による保存状況が紹介される。以上の流れから、なぜ舞鶴が日本有数の赤れんがの町で、地域を代表する資源なのかを理解できる。
 また、れんが資料室には、子供向け、一般向けと分けて同館オリジナルの解説書類が用意されている。展示を見た上で、これらのドキュメント類に目を通す理解がいっそう深まる。

 同館では毎年企画展を開いているが、これもまた本格的なテーマと展示が行われている。その充実のためには、学芸員が実際に海外まで足を運んで調査・収集等を行うという。
 1997年「チャンパ王国とれんが 〜ベトナムの古代遺跡〜」
 1999年「旧新橋停車場と赤れんが 〜明治時代の鉄道をふりかえる〜」
 2000年「古代オリエント文明とれんが 〜世界最古の文明を訪ねる〜」
 2002年「中国のれんがと建築」

 企画展のオフィシャルガイドブックもまた本格的な編集となっており、資料性は高い。バックナンバーは残部のみミュージアムショップで販売している。個人的には「チャンパ王国とれんが 〜ベトナムの古代遺跡〜」におけるチャンパ王国という文明の存在、「旧新橋停車場と赤れんが 〜明治時代の鉄道をふりかえる〜」での明治時代の駅舎における赤レンガ利用に新たな認識を得ることができた。

 赤れんが博物館は舞鶴市の観光案内には必ず紹介があり、既に集客コアとなっている。物見遊山の観光客にすると、同館は“実直すぎてつまらない”との印象を持つかも知れない。また、市内のレンガ建築や遺構についても、保存のために公的な援助があるわけでもなく、同館が発行している「舞鶴のれんが建造物マップ」を見ても「減失」(つまり取り壊された)例が少なくない。将来的には、この博物館周辺の国道27号沿いにある12棟からなる倉庫群(一部では夜間のライトアップもある)や自衛隊等の公的な管理が可能な物件以外、何らかの対策がないとその姿を残していくのは厳しいだろう。

 それもまた建造物の運命かもしれない。土を焼いて生まれたレンガは土に帰る。しかし、レンガを真っ正面から捉えた博物館として、同館の価値は必要性はさらに高まるだろう。つまり、地域資源のレンガ建造物が減っても、多数のレンガ建造物を欲した地域の歴史は消失しない。コストや法制度から、次の時代にレンガ建造物がどうなるかはわからないが、地域資源としてしっかりとした認識さえあれば、再生・新設を求める活動も可能ではないだろうか。展示の最終コーナーの「れんがの現在と未来」では、次のようにその将来を位置付けている。
 「近年町の景観がレンガによって彩られることが多くなった。そのアンティークな雰囲気が見直され、各地でレンガ建造物がリニューアルされている。レンガは単材の組み合わせの工夫によって自由に造形できるなど他にはない魅力がある。今後はその仲間であるタイル、ガラス、セラミックなどと各分野で大きく貢献すると期待されている」。

 赤れんが博物館は、地域の将来を考えるきっかけとしての役割も果たしているともいえよう。


館内の様子













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