鳥取二十世紀梨記念館(3)


○来館者の人気は、梨や加工品の試食が可能な「キッチンギャラリー」

 1階の展示スペースで「梨(二十世紀)の本場・鳥取」を感じさせるのが、「梨と暮らし・キッチンギャラリー」である。展示テーマが梨という果物である以上、その味覚を体験する機会の提供も重要なコミュニケーションだ。梨の消費拡大もまた記念館の役割なのである。しかし梨は出荷シーズンが決まっており、冬季から夏期にかけては収穫がない。そのため、前年に収穫した日持ちする品種で冷蔵保存したものや加工品等を試食(もちろん無料)することで対応している。個人的には必ず試飲を勧めるという、冷やした「梨紅茶」(地元の名和町産の無農薬茶に八島町産の二十世紀梨のチップをブレンド、合成香料を使わずに作ったもの)がとても気に入った。以上は女性のインフォメーションスタッフが応対してくれる。

 この他、倉吉にある7つの窯元の茶器展示、自由に検索可能な梨料理のデータベースや梨の花による押し花体験コーナー等が設けられている。ここが同館で最も人気のコーナーだという。デバ地下の誘客ではないが、やはり試食体験は重要である。
 なお、2004年8月から同館入口付近にミュージアムショップをオープン。近隣の農家が直販を行っている。来館のピークとなる8月からスタート、10月までは二十世紀梨を中心に6品種を販売。11月からの閑散期は3品種を1月下旬まで販売している。


○パノラマやメディアミックス等の表現で訴求

 「梨を育てる」コーナーでは、梨栽培の盛んな地元・東郷町の舎人地区から山田谷地区にかけての梨畑の風景をパノラマで表現。そこに、梨を育てて出荷するまでの作業や設備の様子をミニチュア模型で表現、手元のパネル操作で希望するシーンを選ぶと、パノラマに設置されている超小型カメラが移動して、パノラマ内部での該当場所でそのシーンを実況してくれる。例えば「収穫・出荷」を指定すると、パノラマの選果場にカメラは移動して、その内部で行われている人や機械による規格による分別と箱詰めの様子を映し出す。つまり、パノラマのミニチュア類はちゃんと内部まで造作されているのである。

 1階には梨についてのほぼ全てと思われるトピックスが展示されている。果物としての3,000種類に及ぶ梨、そこから内外の代表的な品種の展示、「梨」をテーマにする芸術作品、「梨」の食文化的考察、農業として生産技術開発の歴史等、梨を知るに不足はないだろう。例えば「シアター」で上映されている「梨の来た道」というハイビジョンのコンテンツは、国内レポートでなく中国・シルクロードの梨生産ドキュメンタリーであった。

 このように、広範な範囲の情報を対象とした分、それほど地元性は感じられない。現在の「二十世紀」の訴求を少々アレンジすれば、鳥取県でなくても首都圏にあっても不思議ではないようなスケール感がある。逆にそれがせっかくの鳥取旅行あるいは鳥取二十世紀梨の訴求を弱めている。
 その中で、地元をアピールしていたのがこの「梨を育てる」コーナーのパノラマである。小型カメラによる実況の仕掛けは面白いが、パノラマの造作についてはもっとリアリティが欲しいと感じた。それともうひとつ、「梨と生きる」をテーマにした「鳥取二十世紀梨物語劇場」がある。ここでは、ジオラマやロボットを使ったメディアミックス手法により約10分間、鳥取が二十世紀梨の一大産地になるまでのプロセスを紹介する。そのスペースは昭和初期の梨農家の土間を再現した演出である。ただしコーナーの入口も兼ねるこの梨農家の造作にはそれほど地元らしさを感じなかった。いわゆるレトロな日本家屋として、全国どこでも通用する造作だったのである。

キッチンギャラリー

梨を使ったレシピを紹介。自由に持ち帰ることができる





○圧倒的な情報量で広く浅い理解に終わるリスク

 吹き抜けの中央に設置されたシンボルツリーは、2階から俯瞰してもその大きさに畏怖を感じてしまう。梨の枝は、実を収穫しやすいように人工的に低い位置から伸ばすように育てるのだが、これだけ巨大になると、まさに大地を包み込むような迫力がある。
 その、ライブラリー機能中心の2階で唯一子供向けとなっているのが「梨と遊ぶ」コーナーである。ここは、遊具類で梨の木の下を表現。自分が小動物になった間隔で、幹の部分や土の中に入って探検する、あるいはAVシステムを駆使しながらクイズに答えて遊ぶといったエンターテイメントが提供されており、「梨と暮らし・キッチンギャラリー」と並ぶ人気のスペースである。
 総じて、地元の梨文化訴求は、どちらかといえばエンターテイメントを意識、その他広範な話題は極めて実直に表現という差違を感じたが、これは逆のように思う。一般的な話、例えば「梨」の民話紹介などはエンターテイメントに振った方がわかりやすく興味も持ちやすいのではないか。地元の二十世紀梨の消費拡大フックという施設の役割からして、食品の栄養や安全性に関して敏感な消費事情にある現在、なぜ二十世紀梨が美味なのか、あるいは健康にどのように役立つのかを実際の試食経験の提供を含めての訴求、つまり鳥取二十世紀梨のストレートな表現が来館者の意識に残りやすいのではないだろうか。現状では広く浅く梨を知ることができても、その後に記憶の道は閉ざされやすいように思う。


鳥取二十世紀梨記念館 レポート(4)へ