鳥取二十世紀梨記念館(4)


○年間8万人来館を目標に情報発信を強化

 今後の取り組みだが、「梨の文化情報施設」として、観光集客性を維持しながら生涯学習機能や生産者と消費者の交流拠点機能をさらに高める。具体的な施策として、1.知的娯楽要素の充実により観光集客を強化、2.体験学習の充実、3.栽培農家、試験場、大学、博物館等との連携で交流機能を強化等の方向性が示されている。

 オープンした2001年(平成13年度)はその効果もあって、約16万人の来館で賑わった。2003年(平成15年)は約75,000人、2004年(平成16年)も同様の数字が見込まれている。来場者アンケートの結果では、鳥取県内からの集客が最も多く、次いで島根県、大阪府、兵庫県、岡山県と続く。個人:団体は35:65の割合で、同館としては団体比率をアップさせたいと意識している。
 目標は年間8万人となっており、積極的にプロモーションを行い運営のバランスシートのさらなる改善を図る計画である。公式サイトにあるように、イベントの企画・実施を活性化する他(http://www.nashikinenkan.com/event_annai(04.11))、取材時(2004年7月時点)では以下のような施策を挙げていた。

・愛称募集:平成17年度に「鳥取二十世紀記念館・○○○」といった愛称となるネーミングを公募する。施設の認知普及と親近感を高めるのが狙いである。

・案内の強化:現在、受付や案内を担当する「インフォメーション」スタッフは5名(常勤、この他非常勤2名、臨時2名)だが、詳細に説明するのは巨木で、その他の展示について案内を行うレベルに止まっている。そこで“梨の語り部”として、各コーナーでも詳細をフォローできるようにレベルアップを図る。


○土の香り-生産のリアリティが欲しい

 率直な感想として、梨産地において梨を理解する生涯学習施設としては理想であろう。倉吉パークスクエア内に整備された温水プールや屋外遊具場と同館で、心身をリフレッシュが可能にありそうだ。

 一方、生産者と消費者が交流する(できる)拠点としての役割だが、これには荷が重いように見える。インターネット等を利用した直販による両者の交流、インターネットオークションのような新たな直販チャネルの登場、流通や農協による生産者を公開した付加価値販売の浸透等、生産地に立派なハレ空間を用意しなくても交流は可能な時代である。それに、来館者はほとんど鳥取二十世紀梨の出荷地と同じである。よく知られた「鳥取二十世紀」のブランドに対して、さらに詳細な情報を理解してもらうのは、ブランドの圧倒的な支持さらには上位スイッチ(つまり高価格帯商品へ)の獲得にある。このセオリーが二十世紀梨にも該当すると仮説しても、そこに集客空間がどのような役割を果たすのかは曖昧である。



昭和初期の梨農家を再現した劇場で上映される「鳥取二十世紀梨ものがたり劇場」


梨の不思議ガーデン」は
自分が虫になった気分でナシ園を探検する


大きなイモムシはかなりのインパクト



「梨ガーデン」には珍しい品種、新種を植栽

 そして博物館のコンセプトを変更して機能強化を図った観光施設性だが、同館も「記念館を見るだけでの目的では訪れない。温泉、帰省等観光レジャーのついでや団体旅行がきっかけとなる」と認識。そこで旅行業者、近隣の観光施設等との連携強化を示している。率直に言って、地域資源である二十世紀梨をテーマにするなら、これほどの規模が必要だったのか。こうした人工的・未来的(倉吉未来、というネーミングが示している)な整備空間の立地が、生活者の“見て体験したい”好奇心を刺激するとは思えない。テーマは二十世紀梨である。もっと生産の現場に近く、そのプロセスがわかるような場所、空間構成でもよかったのではないか。地域最大の産物でありながら、記念館にいると、近隣で栽培されているとはイメージにしにくい。来場者は率直に言って試食を求めている。梨のフードパーク的な割り切りも必要ではないだろうか。

 もし、これが日本唯一の梨に関する博物館(「二十世紀」という人気品種の最大産地を意識しながらも)として、研究・保存等に徹するのであれば最高の環境にあるといえよう。しかし、観光施設、集客という最も厳しいマネジメントを選択したのである。行政はもちろんのこと、生産者、経済団体、農協そして個人に至るまで、密なコミュニケーションによる連携で、「梨のエンターテイメント」その究極の完成に集中・行動してもらいたい。
 メイン展示となる巨木は、まさに“二十世紀梨の二十世紀”であった。それは枯渇して終わったのではない。二十一世紀の新たな巨木と代替わりしたのだ。そして今、まさに新生が始まっている。“二十世紀梨の二十一世紀”を記録して発信する使命を、鳥取二十世紀記念館は課せられたのである。


はじめに