4.黄金抗

 職員が鍵を開けて、早速中へ入る。入口部分は床、壁、天井ともコンクリートで整備した、ただのトンネル(写真11)。しかし先へ進むと二股に分かれ「←大千畳抗」「洗鉱場抗→」の表示(写真12)が出てくる頃には、床以外はむき出しの岩肌になり、まさに洞窟の中を探検という感じでワクワクしてくる。まずは「大千畳抗」へ案内され、見学用に設置された階段を上る。

 その両側にも、何カ所も岩を削った跡があり、「自由に位置を変えて、タガネの跡などをご覧ください」と記された案内板と、取っ手が着いたスポットライト(写真13)を設置している。これは良い仕掛けで、左右しか動かないが、自分が見たい場所をじっくりと見ることができる。(「タガネ」とは、岩を削るときに使う鋼鉄製のノミのことである)

 生々しい掘削の跡に驚嘆しつつ階段を上りきると、そこは約6m×3mの屋根がかけられた展望台風の広場になっている。目前に半径約10m、高さ約5mのドーム状の薄暗い空間がぽっかり出現(写真14)し、パタパタと鳥が飛ぶような音がしている。

筆者:「この音は何ですか?何か飛んでません?」
課長:「コウモリですよ。ここは、“大千畳抗”と名付けられた大空間ですが、ここから、横穴がいくつも伸びていて、外につながっているものもあるらしく、そこから入ってきているらしいんです。でも、見ての通りここは崩落した跡があり、危険なので横穴がどのくらいあって、どこへ通じているのか、調査できないんですよ」

 言われて、目を凝らすと黒い点がいくつも飛び交っている。

課長:「ライト付けてみましょうか。おーい、ライト付けてくれ!」

 ともうひとりの職員へ声をかけた瞬間、ライトアップされた目の前の空間に、何十いや何百匹のコウモリが飛び交っている。(写真15)

筆者:「うひゃー、すごい数ですね。この床にある大きな岩全部が、崩落の跡ですか?」
課長:「そうです。ここが発見されたときからこのようになってましたが、どのくらい前に崩落したのか不明です。では、そこの緑のボタンを押してください。レーザー光線、BGMによる“鳴海の賛歌”というライトアップショーが始まります」

 言われたとおりに、ボタンを押すと、大音響のシンセサイザーのBGMにレーザー光線による光と音のイベントが始まった(写真16)。(やはり、ここでもか…)と少々ガッカリするが、単純だが、それなりに幻想的なショーは5分ほど続いた。

筆者:「すごい仕掛けですね」
課長:「そうなんですよ。でも、この中は湿気が多くて、制御しているパソコンがすぐ故障するので、これまでに200万円もメンテナンス費用がかかっているんです」
筆者:「えっ!200万円もですか?」
課長:「ええ。導入してもう6年経って、償却は終わっているんですが、新しい機器を入れたからといって客足が増えるわけはないし、この施設で儲けるつもりもないので、まあ、しょうがないかって感じです。では、洗鉱場抗へ行きましょう」(「洗鉱場」とは、採掘した鉱石を水で洗いながら選別する場所をいう)

 階段を下り、先程の分岐点まで戻り、今度は「洗鉱場抗」へ向かう。途中には、大人1人がやっと通れるぐらいの横穴がいくつもあり、「“小千畳鉱”この先、下方へ約25m、奥へ120mの小千畳鉱が伸びています」「“洗鉱場”この奥14m下りたところに鉱石を選別した洗鉱場が2カ所あります」などの説明書き(写真17)がある。途中が狭くて、そこへは行けないが、これにより網の目のように伸びる洞窟を想像することができ、さらに神秘性を感じる。欲を言うと、横穴の略図・イラストなどを示しておけば、もっとリアリティを感じることができたであろう。
 洗鉱場抗へ到着すると、直径2mほどの池が出現する。水中ライトに照らされた水面は美しい(写真18)

課長:「掘り出した鉱石を、この水で洗い出しながら選別していたんです。当時は電灯がないから、あのくぼんだところに燭台を置いて作業をしていたんですね」

 指さす方を見ると、岩壁の一部が、四角く削られている(写真19)
 
筆者:「なるほど。大変だったんですね。ところで、この水はすごく澄んでいますね」
課長:「そうですね。検査はしていませんが、飲めるぐらいきれいだと思います。“黄金鉱”は以上です。次は、“大切抗”へ行きましょう。さあ出ましょう」

 延べ100mほどの「黄金抗」であったが、荒々しい岩肌の坑道と親切な説明で、リアルに当時のことが想像できた。公開されている坑道が短くて、少し物足りなさが残ったが、次の“大切抗”に期待することにしよう。

 「黄金抗」から出て、次はどこから入るのかキョロキョロしていると

課長:「“大切抗”は、この下の方にあります。では行きましょう」
筆者:(恐る恐る)「どれくらい歩きますか」
課長:「そうですね、10分ぐらいです」
筆者:「・・・行きましょう」

 再び山道を一列になって下りていく。


写真11:
入口付近はただのトンネル



写真12:坑内の分岐案内



写真13:自由に動くスポットライト



写真14:大千畳抗



写真15:わかりづらいが、黒いものがコウモリ



写真16:「鳴海の賛歌」のライトアップショー



写真17:横穴の説明書き



写真18:洗鉱場抗の池



写真19:燭台を置いていた穴




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