5.大切抗

 ほとんど下り坂のため、歩き疲れることなく到着。ここも坑道入口の前に小さな休憩所(写真20)が設けられ、テント張りの砂金採取体験施設(写真21)も整備されている。

筆者:「あのテントが砂金採りの場所ですか。ここへ来た人のどれくらいの人が体験するんですか?」
課長:「そうですね、子供連れの方はほとんどやりますよ。全体で3分の1ぐらいですかね。1回200円と安いですから。採った砂金は小瓶に入れて持ち帰ることができます」
筆者:「砂金はここでとれたものを使っているんですか?」
課長:「いいえ。ここもまだ掘れば金は出ますが、コストを考えると…。そこで、カナダ産の砂金を使っています」

 実は鳴海金山、朝日村が管理し、採掘権を所有している。今でも採掘が可能なのだが、人件費等のコストと産出量を比べると、再会しても採算が合わないらしい。

課長:「この“大切抗”は、鳴海金山の中でも一番下に坑口があるため、金山全体の水抜きとしての役割を果たしていました。そのため、ここからはあまり金を掘り出すことはなかった坑道です。しかし、明治の初めに、新しい採鉱法によって、可能な限りの金を掘り出すことに成功しました。その遺構が現在も残っているのです」
筆者:「ということは、“黄金抗”とは様子が違うのですか?」
課長:「そうです。先ほどの“黄金抗”のゴツゴツした岩肌ではなく、なめらかになっています。実際目で確かめてください。中は、少々狭いので、これを着けて下さい」

と渡されたのは頭頂部にいくつものスリ傷が付いているヘルメット(写真22)。まさに探検という雰囲気が盛り上がってくる。全員が着用完了後、“黄金抗”より小規模だが、きれいに整備された入口(写真23)へと向かう。

 中に入って10mも進むと、上下左右とも岩がなめらかに削られている(写真24)。天井のいたるところから水滴が落ちてくる。水抜き抗として活用されていた名残か、床の端には溝が掘られ、水路として水が絶えず入口に向かって流れている。

 奥へ進むにつれて天井は低くなり、ヘルメットがコツコツと当たり始めてくる。当然、腰をかがめて歩かなければならない(写真25)。ヘルメットの頭頂部だけの傷の原因はこれであったのだ。

 途中には、床から1m程上に横穴がいくつもあり、「“試掘抗”この先に金鉱脈があるかを探して、掘り進んだ坑道。岩の割れ目に沿って掘り進められたが、大きな金鉱脈には突き当たらなかったようである」と説明書き(写真26)がある。中には突き当たりが見えないほど深く掘り進んだ穴(写真27)もあり、「こんなに手堀りで進んで金鉱脈が見つからないときは悔しかったろうなあ」と少し感傷にふけりながら先へ進む。

 100mも進むと、らせん階段(写真28)が現れ、順路が上へ向かう。やっと腰を伸ばし、狭い階段を上っていると、

課長:「登り切ると、もっと狭くなっていますから、注意して下さい」
筆者:「まだ狭くなるんですか?もう腰が痛いです」
課長:「ガンバって下さい!」

などと励まされる始末。その言葉通り、ほとんど前屈みになって歩くぐらいの狭さになる(写真29)。しかし、地中探検という非日常行為が、楽しくて仕方がない。他の取材メンバーを見ても口では悲鳴を上げながら、顔は笑っている。

 途中には、いくつか分かれ道があり、そこへ行ってみるとフェンスが張ってあり、行き止まりとなっている(写真30)

課長:「この先は、さらに狭くなり、どれくらい奥まであるのかわからないので、立ち入り禁止なんです」
筆者:「このような未調査の洞窟はいくつもあるんですか?」
課長:「逆に解っている坑道がほんの一部と言った方がいいでしょう。現在も大学の学術調査は行われていますが、まだまだ全容は解明されていません」

 1200年の歴史と規模に驚かされるのであった。そうして、30mほど進むと、再び下りのらせん階段が現れる。そこを下りると、先程通った坑道へ戻った。やっと腰を伸ばせたため、全員がため息をつき、腰をさすりながら、出口へ向かった。

 全行程150mほどであったが、地中探検という趣で、非常に楽しい空間であるのと同時に、何も手を着けないありのままの掘削跡を見ることで、抗夫の苦労と歴史の長さを感じることができた。

 坑道を出て、休憩所で一休みしていると、

課長:「この下には、ここの水を使った洗鉱場跡もあるんですよ。ほら、草の影に少し見えるでしょう」
筆者:「え、どこですか?」

と少し下りていくと、坑道から流れる小川の先の草がボウボウに生い茂っている中に、丸い石造りの池が見える(写真31)

筆者:「そこまで観光用に通路を造るとかしないんですか?」
課長:「そういう計画もあったんですが、自然保護のために、勝手に道も整備できないんですよ。本当は、“朝日スーパーライン”の入口から、それぞれの坑道へ車で行けるぐらいに道を整備して、お年寄りでも楽に来れるようにしたいんですがねえ…」
筆者:「うーん。でも個人的には、ここは自然を楽しみながら坑道観光もできるからこそ、魅力があるような気がします。逆に、坑道までの山道をハイキングコース的に、一周して帰ってこれるようにしたらいいかも知れませんね」
課長:「そうですね。予算のこともありますが、我々ももっと勉強して、この資源を生かして行きたいです」

 観光課のお二人は、せっかく来たので、残って少し作業をするということで、取材班だけで山道を駐車場まで引き返す。
 その約20分の山道は上り坂になるわけで、ご想像通り、運動不足の取材班全員がヘトヘトになったのは言うまでもない。

写真20:大切抗の休憩所


写真21:砂金採取体験施設


写真22:頭頂部の傷が気になるヘルメット


写真23:大切抗入坑口


写真24:上下左右ともなめらか。横には水路も


写真25:だんだん狭くなってくる


写真26:試堀抗の説明書き


写真27:こんなに深い試掘抗も


写真28:らせん階段でやっと腰を伸ばす


写真29:ほとんど前屈みで前進


写真30:行き止まりの道も数多い


写真31:自然にさらされたままの洗鉱場跡




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