新刊のご案内


『相互扶助のイノベーション』

失われた10年、失意の20年を受けて
混乱したマーケティングを立て直す
〜自動車販売再編期の活力向上のために〜


編集長 安部基史

■生き残るために、強者の論理を捨てる

仮に強者にあたる組織(企業・団体)が10%とすると、弱者は90%となりますが、保有する富、将来の展望はその逆の割合になってしまうでしょう。最もわかりやすいのが、中央(東京)と地方の格差です。もちろん東京でも23区で事情が異なりますが、生活社会として存立の基盤さえ危うくしている地方からすると、いぜんましな状態だと感じてしまうのです。

排他的社会化は、2009年の政権交代によってブレーキがかかるかと期待したのですが、この原稿を書いている10月現在、むしろアクセルが踏まれたようです。いま、地方では国のサポートがなければ、先行きが成立しないぎりぎりの状況にある組織や団体がたくさんあります。

厳しさ倍増のこの日本で、多数を占める中小企業や団体、さらには落日にある大企業も含め、なんとか経済活動を続けていくには(雇用を守り健全な社会を維持していくためには)、強者の真似事は不要です。強者の価値で書かれたマネジメント本は捨てて下さい。強者のために誘導しているメディアに背を向けて下さい。得意先やクライアント等だけを見て気にするのはほどほどにしましょう。もしも自分が、相対的に弱者と思うのであれば、静かにあなたやあなたの会社の周囲を見つめて下さい。業種が違えば商取引も違うと視野に入ったなかっただけで、同じ思いのたくさんの弱者に気づくはずです。


■強者を交えず、弱者が助け合う

そこで始めることは、弱者同士、商売、コミュニケーション、生活等あらゆる分野で可能な限り相互扶助を可能とする関係づくりです。相互扶助とは、お互いに助け合うことです。保険の世界ではよく使われる言葉ですが、最近は福祉分野でも唱えられています。似た概念として異業種協業がありますが、基本的に異なるのは、そこに強者は参加しない(させない)ことです。強者の集まったブランド研究会ではありません。また地域興しのための名産品開発プロジェクトでもありません。弱者が手を組んで、相互の“弱点”を解消する、いわば商売(ビジネスではありません)の革新=イノベーションなのです。

人間関係(家族、血族、友人等)においても、相互扶助は、社会生活を豊かにするに大事な概念ですが、現代の日本では家族でさえ個人化・孤立化が進み、相互関係をつくることが難しくなってしまいました。また強者の論理では、依存関係は徹底的に嫌われます。こうして新自由主義下、人間関係の相互扶助は経済行為となっています。この場合、お金を払って扶助を受けるという一方通行の契約で、実は相互ではありません。しかし、急速な少子高齢化が進む一方で所得が増えない(減っている)、いつまでも“改革の痛み”を要求される状況で、必ず相互が必要になってきます。家族、お隣、町丁といったミニマムコミュニティで、経済行為で扶助を得られない人たちが相互に弱点を補う関係が間違いなく活発化するでしょう。


■“天国から地獄へ”自動車販売の再生のために

本書は、これまで強者として君臨してきたものの、世界規模の急激な需要の変化で、あっという間に苦しい立場に追い込まれた自動車業界、特に現状はもちろん将来の市場縮小に直面、業態として存在そのものを問われている自動車販売業の再生に寄与するマーケティング開発に役立てていただけることを念頭に置いています。
既に自動車販売業は弱者です。当事者はもちろん納得しないでしょうが、そう認識すべきだと考えます。弱者ですから、強者が振る舞うように、かんたんに店や人等の資源をリストラすべきではないと考えます。ではどうするのか。

本書で示す、「相互扶助」をコンセプトに、商売のイノベーションを再考して下さい。他業種の弱者と助け合うことで、新たな活性が生まれるはずです。掲載した事例はどれも、マーケティングの方向転換の示唆に富んでいます。必ず、ヒントが見つかるはずです。
また、絶望の淵に達してはいないが不安の渦中にいる状況の業種・業態であっても、紹介する弱者の思想から、冷静に未来を考え直す決意が可能になるはずです。もちろん現在の商売活性のためにも大きなヒントになると自負します。


■相互扶助イノベーション推進への示唆

事例を検証すると、相互扶助イノベーションの実践は、以下の三点に集約されます。

まず、当然ですが実施主体は“安定強者”ではなく、“激変中小”であること。経営や事業の将来性、自治体ならば地域ポテンシャルのあり方が、楽観など許されず、生き残ることに必死という存在です。具体的には、ローカル地域の弱者の足を担う公共交通事業者、本業以外の地域活性・観光誘致に明日を見いだそうとする第三セクター事業者、市内人口の5%に過ぎない人々まで、平等かつ高質な福祉サービスを提供しようとする自治体等を取り上げました。

次に、対象が弱者(呼ばれた)であること。上記各社の取り組みは、別の視点で考えると、十数年後の日本社会の主役である高齢者層を先取りした(正視した)事業といえるでしょう。商売の規模としては、今は小さく限定的ですが、将来は高齢人口の増大によりマーケティングの主役になりえる可能性大です。

三つ目は、実施推進者=弱者の思想には、深い人間愛・郷土愛が溢れていることです。事業対象をシニカルに評論するだけのスタンスでは、形はできても心が育ちません。某経済団体のセミナーで少子高齢化による人口減対策として「移民を受け入れ増やせばよい」と真顔で語る大手企業トップがいましたが、歴史文化価値観(宗教も含まれよう)が異なる集団を受け入れ、融合・共存できるまでの時間及びその政治的リーダーシップに楽観できるのでしょうか

こういう認識を聞くと、失われた10年・次の失意の10年の合計20年間で最大の損失は人間性そのものという感を強くします。弱者であってもしっかりとした意志と信念を持った人々が、いま地方から社会の復興を担おうとしています。

クルマはモビリティの主役、しかし本書に取り上げた公共モビリティは特に地方ではこれまで端役に過ぎなかったのです。むしろ、もう役割は終わったから撤退(廃止)しろと、社会的使命の喪失を指摘されていました。皮肉にも、衰退社会では、弱者の思想、取り組みが、強者である自動車市場(特に販売チャネル)の再興に大きなヒントとなっています。

本書の執筆、制作にあたりたくさんの一隅を照らすかのような、すばらし人々にお世話になりました。この場を借りて深く感謝申し上げます。





個人の介護経験を決して無にせず事業を企画、上司を納得させて現実にしたいわて銀河鉄道(株)の米倉崇史さんには、予見に凝り固まった取材陣を丁寧かつ優しく応対で本質理解に導いていただきました。ありがとうございました。貴社の闊達自在な社風もすばらしいと感じています。

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取材テーマの駅と福祉施設の複合拠点化事業のみならず、自社が地域をどれだけ大事にしているかを熱くしかも体系的に語っていただいた明智鉄道(株)の今井祥一朗専務、丸一日お付き合いいただきたいへんに感謝しております。「明智から極楽行き」硬券は宝にします。
そして井口ハートクリニックの井口路苑副理事長をはじめスタッフのみなさま、新しい時代の福祉施設をこれからも実現、ご教示ください。

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業界では最初にアテンダントサービス運用を定着させたえちぜん鉄道(株)の佐々木大二郎さん、酷暑の中、車窓の風景を共有できて感激でした。異動あっても、どうかこれからも新人アテンダントの後ろ盾となって、支えてあげてください。

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岡山県笠岡市役所市民部健康福祉課(取材当時)の網本善光統括には、極めて現実的・理論的・意欲的な同市の高齢福祉事業の展開をご紹介いただきました。地方を再生する力を感じました。これからも行政としての福祉事業の本質を私たちに教えて下さい。
そして夢ウェル丸の中塚俊夫さん、必ず春木島にうかがいます。中越さんの最高の笑顔こそ、今の私たち日本人に必要な基本姿勢と痛感させられました。

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