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新刊のご案内 | |
『相互扶助のイノベーション』 失われた10年、失意の20年を受けて 混乱したマーケティングを立て直す 〜自動車販売再編期の活力向上のために〜 |
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■事例1:えちぜん鉄道(概要版) 1960年代、公共交通に利用者が溢れていた時代、鉄道にしろ、バスにしろ車内に車掌が同乗するのは当たり前の風景であった。それがモータリゼーションによる公共交通の事業性悪化によるコスト抑制から、ワンマン化・機械化さらには駅無人化が始まり、現在はICカードシステムのような技術革新もあって、大都市の駅においても改札の無人化が定着するなど、およそ公共交通空間の無機質化は完成の域に達している。 |
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2.アテンダントサービス=車掌さんが復活 再生当初から導入されたのがアテンダントサービス、簡単にいえばお世話係、車掌さんの復活である。アテンダントは全員が女性でその仕事は、電車に乗り慣れていないお客さまが増えるラッシュ時以外の時間帯に乗車、乗降のサポート、切符の販売、情報提供(観光案内)などの仕事を担っている。以前の車掌と違うのは、利用者を「お客さま」として、個々にニーズに可能な限り対応していくようなコミュニケーション重視にある。運行に関しては運転士の仕事と明確に役割分担されている。 アテンダントはいまや同社ばかりか地方鉄道を代表するような存在だが、開始当初から歓迎された存在ではなかった。現在のような事業に不可欠な存在となるまでに約10年の時間が必要となった。 |
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車掌=アテンダントの導入は人件費増加、つまりコストアップにつながり、第3セクターで税金を投入している会社には不要との批判を受けたという。対してアテンダントの生みの親である同社のトップは、「鉄道事業だけで収支改善は現実に難しい。いかにお客さまを増やせるかが問われる。それにはサービスを販売するサービス業に脱皮するしか道は残されていない。そのための投資のひとつがアテンダントであり、コストではない」と力説してきたという。アテンダントは顧客との接点であり、いわば会社の顔ではあるが、一生懸命にサービスを売る(お客さまに伝えていく)営業マンに他ならないというわけである。 |
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3.アテンダント乗車の安心感で、リピート利用を活発化 10年という時間がかかったものの、アテンダントとお客様との距離が徐々に縮まって、リピートにつながるなど、具体効果が表れるようになった。また、同社の積極的な広報展開もあって、地元以外でもマスコミ露出が増えるようになり、アテンダントの存在は全国区となり、『私たちローカル女』等の出版物も生まれている。当初、9人の派遣社員の形でスタート、10年が経過した頃から契約社員11名の体制で運用され現在に至っている。最初は苦情もあったが、今は一切ない。逆に今はお礼の手紙が届くこともある。我々が取材した当日も大阪からやってきたという熱心なファンの一人が、乗車を終えたアテンダントにお土産を手渡しているシーンを目の当たりにした。 なお、他の鉄道事業者からの問い合わせや視察も多く、地方鉄道で現在アテンダントを導入している事業者のほとんどが、同社の取り組みをルーツとしている。 同社のアテンダントの制度化は、車社会にあって経営的弱者である交通事業者が、利用者の多数を占める交通弱者をサービス業の目線でフォローし始めたパイオニアでもある。ここに、相互扶助イノベーションの価値を見いだすことができる。 なお交通弱者とは、一般的に高齢者や幼児、自動車を日常利用できない層を示していたが、近年の不況によって、経済的交通弱者すなわちお金が厳しくて自動車を維持・利用できず公共交通機関を利用するという人が増えている。実際、2008年のガソリン高騰時は、えちぜん鉄道のみならず地方では公共交通の利用者が増えている。ガソリン価格とは原油市場への投機の影響が強く、いつまた価格の乱高下が起こるか不気味な情勢だ。現在の景況が続いたままであれば、その時確実に起こるのはさらなる「クルマ離れ」であろう。自動車販売業は今から事業的“弱者”を認識して、公共交通事業者との相互扶助に取り組むべきである。 4.アテンダントはコミュニケーター 利用者ではなく「お客さま」と位置づけての接客応対を徹底、利用満足度を最大化する(リピート促進を図る)。例えば、同社路線以外の手段を使う場合に、「他社のことはその駅で聞いてくれ」的な独善的応対はしない。乗り継ぎの方法からその場所、時間、ダイヤなど、およそ必要となる情報はすべて伝えられるように“虎の巻”を独自に創り上げて、要望に応じて発進する。例えば観光客で車窓の風景に関心を持っていると分かれば、その由来や特徴などをお伝えする。もちろん車掌として、車内改札、料金収受(無人駅が少なくない)や乗降サポートを担当する。高齢者のように電車利用に慣れていない、観光等で土地勘がない等のお客さまを対象に置いているため、ラッシュ時および夜間は乗車しない。いわばディタイムのみのサービスである。 |
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仕事のなかでも、お客さまの問い合わせに迅速・正確に対応できることを重視しており、アテンダント個人の裁量(例えば笑顔の頻度等)は別として、会社では日々得られる要望や不明点についてきちっとアテンダントの理解を作ることに努めている。不安があればアテンダントは応対しにくい。その上で、会社としての対応を具体化する。 アテンダントとお客さまの車内のやりとりだけで満足しないこと−−つまり“事件は現場で起きている”が解決の役割は本部が担われなければならない。全社対応がアテンダントの自信とやる気を維持する前提なのである。 さらにアテンダント全員が同様の応対ができる(人によって話が違わない)ため、アテンドの横のつながりも大切。 |
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キャリア2年目、11名ではいちばんの新人という安久里香さん(あんきゅう・りか)さんに話を聞いた。 「アテンダントは、誇らしい仕事だと感じています。友人からもアテンダントをやっているのはすごい、と言われます。良かったと思うのは、きちんと会話ができるようになったことです。もともと人見知りする性格で、初対面の人と話をするのが苦手でした。今ではちゃんと目を見て話せるようになりました」。 |
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お客さまの応対は予想以上に気を遣いました。いろんなお客さまがいらっしゃる分、尋ねられる内容も曜日や時間によって異なるなど多岐に及んでいて、それぞれに満足していただけるように努力しています。 傾向としては、土・日は観光客のご利用が多いため、観光地に関する情報、特に歩いていけるのか、何分かかるのか、タクシーならいくらか、どこで降りたらいいかなどアクセスに関連についての問い合わせが多いですね。聞かれた内容や傾向はほぼ記憶していますが、わからなければ虎の巻(マニュアル)を参照して曖昧にしないようお知らせしています。話しかけられるのはお年寄りがほとんどですから、丁寧に応対するように気をつけています。 業務で気づいたことは忘れないようにメモをして、日報に記入したり月1回のミーティングでアテンダント全員に共有するようにしています。その際に先輩からこうした方がいい等とアドバイスをもらっています。 毎日乗車していますと、だいたいお客さまを覚えるようになります。紙にはなっていませんが、頭の中には整理されていると思います。このお客さまはあの駅から乗ってくる、あらは病院に行くためにあの駅で降りるなど、はっきりとわかっている場合には、駅に着く前にお知らせします。もちろんお客さまの降車をサポートしています。身体が弱くても、お客さまによっては親切でも手を出さないで断られる方もいます。同じ人手も曜日によって違ったりします。このあたりの判断が難しいところで、これはもう経験で身につけるほかないと感じています。 |
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