空間通信レポート


〜myX(マイクス)は、いま〜 (1)

コンセプトは「モビリティライフのデザイニングスペース」
お客さまの“クルマを買うに至る物語”を実証

当社刊『自動車販売店・売れる空間と仕組みの最新』(全5巻)シリーズの第1巻を発売したのは2002年のことである。本シリーズでは、将来に向けて再生・新生に取り組む販売店の新しいマーケティング活動を、店舗運営・創造そして活動を紹介してきた。それから既に10年近い時間が経過、自動車販売ビジネスを囲む環境も激変し、当時はタブーに近かった販売店の統廃合が現実のことになっている。リーマンショック以降の市場収縮は誰しも予想していなかっただろう。急成長は期待できないが堅調な回復を前提に、施策構築が図られていたのである。そうした挑戦が、現在の市場収縮期に直面して、果たして機能しているのだろうか。むしろ花開く結果をもたらしているだろうか。それとも・・・

そこで、本シリーズで紹介してきた事例について、現況をお伝えすることにしよう。また、当時紹介しきれなかった情報についても、店舗の「今」を踏まえつつ、加筆を加えていく。当時の記事とも比較して、イノベーターのみなさんの現実を知ってもらいたい。

まず、第1巻のテーマ「複合」で取り上げた店舗から、神奈川トヨタ自動車(株)のmyX(マイクス)を紹介しよう。今回の取材では、同社の配慮で、超多忙な上野健彦会長(現KTグループ会長)へのインタビュー機会をいただいた。ありがとうございました。


◆自動車を出発点にライフデザインを目指す業態としてオープン

myX(マイクス)の概略は以下の通りである。
1996年(平成8年)、神奈川トヨタ自動車(株)創立50周年を契機に、本社ビルをリニューアルしてオープン、ビルも「myXビル」とネーミングされた。RV車のブームが起きる前のことである。右肩上がりの自動車市場が終焉を迎え、中長期的に見ても自動車の販売だけのビジネスには限界があるとの同社上野健彦氏代表取締役社長(当時)の判断から、自動車を「販売」して「整備」するだけでなく、車のある生活を「良くする」、自分らしさを「創る」、そのためにグッズを「揃える」、そして自由に「楽しむ」。自動車を出発点とするライフデザインを目的とした業態の具体化を図った。


お話を伺った、上野健彦会長

コンセプトは、「モビリティライフのデザイニングスペース」。人が移動する際の楽しみや、豊かさを体感できる商品、サービスを提供している。ターゲットシーンは、ドライブはもちろん、オートキャンプやアウトドアスポーツ等で、カジュアルウエア、フィッシング・キャンプ等のフィールドグッズ、MTB/バイク、カーナビ、カーアクセサリー、そして介護・福祉関連等で、いずれも専門性の高い商品が集められている。もちろん、トヨタ店扱いの車両も展示・販売されているが、取扱う商品のワンアイテムに過ぎない。

取引のある問屋は約200社以上、商品点数は11万点を数える。そして、非自動車関連商品の売上は、年間約6億円に達しており、アウトドアのブームに影響されず、成長が続いている。


◆バリューチェーンの必要性を認識

当時、上野会長は、バブル以降自動車市場の縮小が止まらない日々、トヨタ自動車では最大手の販売会社を経営する立場で、「自動車メーカーは現実に市場で起こっていることをどれだけ把握できているのだろうか」との疑問を感じ始めていた。

従来からのメーカー戦略、例えばフルモデルチェンジを繰り返す、あるいはカテゴリーの空白を埋める新モデルを投入することに力を入れているのは、あくまでも供給側の論理に過ぎないのではないか。販売の現場で痛感するのは、今、消費者の志向そのものが大きく変わろうとしている現実である。

販売会社はこれまで、メーカーの施策通りに行動して数多く売り、儲けを出すこと、それを基盤とするメーカーの販売代理店というスタンスを是としてきた。市場の成熟と低成長時により、クルマが売れない時代になって、販売会社の経営基盤を強化していくためには、新車以外の販売にも注力しなければならない。お客さまのニーズは新車以外にも中古車やサービスもある。さらに、残価設定型クレジットなどさまざまな金融商品も生まれ、新車購入と車検を受けて保有を続けることとの垣根が低くなった。新車・中古車・サービスが同じ次元を迎えて、お客さまに最適な商品をお勧めする。上野会長は、これが本来の小売業ではないだろうか・・・と、バリューチェーンの必要性を認識するようになっていた。


myX内・アウトドアグッズコーナー

◆創立50周記念プロジェクトでSI革新をスタート

1998年に同社は創立50周年を迎えた。その記念プロジェクトとして、「会社を丸ごと作り直していく」スタンスで、さまざまなプロジェクトに取り組むことになった。最もこだわったのは、“そもそも新車ディーラーとは”という、ストアアイデンティティの革新プロジェクトであった。

まず、「新車ディーラーに何を期待するか」について、本格的なお客さま意向調査を実施したところ、(1)販売時に値引をたくさんして欲しい、(2)壊れたクルマを早くきちんと直してもらいたい、この2つが突出する結果となった。さらに、詳細なお客さまへのサービスの発見、コミュニケーション評価を把握するために、多層化無差別抽出によるグループインタビュー調査を追加した。発言の中からキーワードを拾い出し、ニュアンスを確認しながら、そのキーワードを基に、「あなたはこういうサービスがディーラーの店頭で行われたらどう評価するか」を尋ねて、評価すると答えた人に「あなたはお金を払ってでもそのサービスを受けますか」との質問を重ねた。お客さま一人一人に内在する耐久消費財の代替性のありかを探ったのである。分析の結果、やはり購買行動には、消費者個々に物語が認められた。これを『代替性』と呼んでいる。



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